211食目、《教皇》の最高傑作敗北
「一体何処に行ったのだ」
現斧の勇者と合成獣のララの【疑似変身】によるクルミが消えてから十分程度経った。世界持ちが作りし世界に行くと端から見たら一瞬で消えたように見える。
自分の最高傑作である魔物であるララに関して《教皇》は少しも負けるとは思っていない。
ただ相手は勇者の1人。そう簡単には勝負は着かないと思ってはいる。いるが、ララが邪魔な勇者を倒したとなれば魔神教会にとって快挙になる。
「ハァハァ、やはり地面があるのは素晴らしい」
《教皇》の目の前に人影が1人分現れた。もしや戻って来たのか?
「ララ、戻って…………!」
「よっこいしょ、何だ?オッサンまだいたのか?」
「貴様は!斧の勇者!」
戻るポイントを誤ってしまったか。《教皇》の前へ転移してしまった。
自分が作った世界から元の世界へ戻るのに繊細な精神操作が必要となってくる。
戻るポイントを誤れば、壁や地面にめり込む事もあるし遥か高い空へと移動すれば落ちる。
最悪の場合は、身体がバラバラになっているという想像を絶する恐ろしい事になる。ハイリターンだが、ハイリスクな技術の一つである。
「俺の最高傑作は何処だ?!」
「最高傑作?オッサン、魔物を何だと思ってやがる」
「ふん、俺の実験材料…………オモチャに決まっておろぉ」
「魔物だってな。命はあるんだ。それを弄びやがって」
何を言ってるんだと《教皇》は首を傾げる。
「お前ら勇者…………いや、冒険者全体で魔物を狩ってるではないか」
「俺らは生きるためだ。だが、お前のは違う」
《教皇》は魔物を改造し、自分の道具のように扱っている。それは命の冒涜であり、自分以外の命を何とも思ってない。
「俺は約束したんだ。もう誰にも負けないと。お前を倒すのは俺だ」
「くふっ、やってみるが良い。最高傑作を壊した罰を与えよう」
良く見れば、斧の勇者であるショウはフラフラでないか。立っている事ですらおかしいな程に息が荒い。
「くっふふふ、どうやら相当なダメージを負ってるようだ。なら、楽勝よ。【召喚:ゴブリンライダー】」
オオカミ系の魔物にゴブリンが跨いでる。二匹の魔物と思いきや、これで一体の魔物としてカウントされる。
片方が死ねば、もう片方も死ぬという弱点はあるものの、オオカミ系の魔物共通である俊敏さに加えゴブリンの器用さにより動きが読め辛い。
それでも普段なら大した事のない雑魚な魔物だが、《教皇》に強化・改造されているらしく魔法を使えないはずが、ゴブリン体が詠唱を唱え使ってくる。
「強化魔法も使えるのか!くっ、早い」
いや、万全な体調なら余裕で対処出来る。だが、戻ってからの連戦ではっきりと言ってキツい。
「うぉぉぉぉ、とりゃぁぁぁぁ」
だが、気合と根性でどうにか乗り切ってやる。と、思ってた自分がいました。くっ、くるみとのダメージが予想より大きい。
「ゴブリンライダーごときで遅れを取っているとは。本当に楽勝のようだ」
「くそぉ」
一瞬死ぬ覚悟をして目を瞑るが、何も衝撃が来ない。ゆっくりと目を開けると目の前に立っていたのは槌の勇者であるサクラであった。
「間に合った。ショウ無事?」
「サクラ!」
「あんたがここまでやられるとはね」
「うるせい。俺は、まだやれるぜ」
男が女より先にくたばる訳にはいかない。こいつの前だけは格好悪い姿を見せる訳には行かない。
「槌の勇者だと!マンティコアはどうした?!」
アレも相当作成に時間が掛かった部類だ。言葉を話す魔物なんて《教皇》や研究者が作った人工的な魔物以外だとドラゴンしか見当たらない。
「先に帰ったわよ?」
「使えないヤツめ」
「まぁまぁ強かったわよ。でもまぁ、ショウの方が楽しそうであったけどね」
「本当にお前は戦闘狂だな」
「ショウの方も大概だけどね」
この二人は幼馴染みという事もあり似た者同士。それも悪いところが似てしまっている。




