209食目、斧vs斧その8
赤の聖斧ルージュは、中々に厄介だ。おそらく聖武器でなければ、触れる事も防ぐ事も出来ずに溶けてしまう。
もし、防ぐ事が出来ても溶岩の温度により体内から水分を根こそぎ奪われかねない。
それに聖武器以外は溶けてしまうという事は、体に触れると即効致命傷になりかねない。
そこで、こっちは水と氷。低体温症になるかもしれないが、そう直ぐに起こる訳ではない。つまり、不利という訳だ。だけど、あの技術さえ発動まで漕ぎ着ければ一発逆転ではないが、必ず勝てる。
「ハァハァ、熱い」
溶岩と氷の激突により、二人の周辺は水蒸気で満ち、まるでサウナ状態となっている。
「なんだか体が軽くなった気がするのよ」
胡桃の方は溶岩を操ってるからか?熱さに滅法強くなってるようで、それに熱さが増すに連れステータスが上昇してるような気がするのは俺だけか?
「クッハハハ、これで負ける気がしないよ【火蜥蜴斬】」
胡桃が持つルージュが巨大化した。【空割り】よりは大きくないが、その代わりに離れていても熱風が感じる。
「クッ、初手で潰す【青空巨人の腕】」
胡桃の両脇の空間が歪み、半透明な巨腕が出現。胡桃に向かって押し潰そうと伸びる。
「フフッ、甘いのよ」
軽く左右に【火蜥蜴斬】を振ると熱風が吹き荒れ、それだけで【青空巨人の腕】の巨腕が蒸発した。
揶揄でも何でもない。軽く押し潰せる程に巨大な腕は跡形もなく氷が蒸気になる昇華するように消えた。
「チッ、色の中で攻撃トップクラスのだけはある」
このまま続けても大丈夫なのだろうか?
いくら【青空世界】が広大なフィールドでもシリーズ系統である色同士の激突が続けば、はっきり言って保てるか怪しいところ。
そうなると、世界の脱出方法のもう一つの条件をクリアしてしまう。その時点でシュウの負けは確定する。
だが、このまま外に行けば被害は確実に広がってしまう。ここで胡桃を倒して止めるしか道はない。
「とりゃぁぁぁ、早くショウを倒して、ここから出るんだから」
「なっ、速っ」
【火蜥蜴斬】状態のルージュをジェットエンジンみたく推進力を得て、下手したら風の時よりも俊敏性が上がってる。
ガキン
「あ、危ねぇ」
瞬時にナギを数倍大きくさせ、氷を纏わせた【冷凍斬】を展開してなければ、腕を持っていかれていた。
「良く防いだわね」
「くっ」
交差したまま踏ん張るショウ。ナギは破壊不能だが、技術で出した氷は別だ。
徐々に氷は溶け蒸発し、技術解除に至るところまでナギの大きさが元に戻りつつある。
「いい加減に…………しろ【氷柱花】」
ドカッ
水蒸気を集め逆に昇華させ、胡桃の腹ど真ん中にゼロ距離で氷の塊を当ててやった。
「ゲホッ」
直ぐに【氷柱花】は溶けて仕舞ったが、衝撃は与える事は出来、少しは後退させる事は出来た。
「やりますね。痛かったです」
「チッ、ウソをつけ。無傷のクセに良く言う」
刺さったとような感触はあったが、血の一滴も垂れていない。ゼロ距離で当てたのだから、少し位は効いていて欲しいところなのだが、ちっとも効いてる様子がない。
(さてとどうするかな?)
まだ、確実に倒せるという技術発動まで時間が掛かりそうだ。
時間を稼ぐにしても、あの溶岩からは何時までも逃げ切れるものではない。予想以上の瞬発力にあの攻撃力は、最早反則と言わざるえない。
(ここは逃げの一手か【雲隠れ】)
大量の雲を発生させ、その中に隠れながら逃げ続ける事にした。あの馬鹿力を前に真正面から戦うなんて戦術的には有り得ない。
「逃げるのか?それでも男なの?」
(何度でも言え。勝てば、こっちのもんだ)
それに、この雲はタダの雲ではない。相手にだけ障害物になる雲で、水のような抵抗力を感じ速度を鈍らせる。
本来ならショウも勇者だからプライドで逃げの一手を使いたくなかった。だが、相手は絶対に倒すべき敵である以上、どんな手を使ってでもここで倒す。
「何なの、これは?雲が纏わりついて上手く動けない?」
溶岩で蒸発させても無駄だ。地上とは違い、ここは常に上空と同じ環境である。直ぐに冷え、直ぐに雲を形成する。
つまりは、脱出不可能な迷路と同じ。このまま窒息を狙っても良いが、その前に蒸発され窒息までもっていけない。だから、俺は最後の一撃を決めるために隠れ逃げ続けるのだ。




