208食目、斧vs斧その7
廻りを覆い尽くした【雲槍】が胡桃に今度こそ当たると確信した。あんなに密閉されては避ける隙間なんてあるはずはないのだから。
だけど、クルミはショウの予想斜め上をいった。
「クスッ、こんなの切れば良いよね」
スパっスパっ
まるで紙を斬るかのように次々に剛鉄の硬さを持つ【雲槍】が真っ二つに切断されていく。
だが、それはショウの罠だった。【雲槍】の中は空洞で中身ぎっしりとBB弾ぽい弾が入っていた。
「念を入れて良かったぜ。【雲散弾】着火」
ショウの指パッチンが合図となり、胡桃の周囲に散らばる無数の【雲散弾】の白い弾が一斉に次から次へ連鎖的に破裂する。
一つ一つは大した威力ではないが、それが無数にあったらどうだろうか?
塵も積もれば山となる。同じ範囲内で破裂すれば、それは…………最早足し算ではなく掛け算のように威力が数倍、数十倍と跳ね上がる。
ドンドンドンドンドンドン
それに雲で作成したから火薬ではない。圧縮した水分を熱で一気に解放した。所謂、水蒸気爆発だ。
いくら、あのゼロ距離でなら風の防壁で守られていてもタダでは済まないはずだ。
「グッガッ」
「やはり硬いな」
あんな爆発があれば、木っ端微塵になると思いきや片腕を失っただけで済んでいる。
だが、それも直ぐに肩の根本から生えて元通りとなった。まるでグロテスクなホラー映画でも見てる気分になる。
本来なら海底火山の噴火により周囲の海水が蒸発する事により起こる自然現象。それを強制的に、ほぼゼロ距離で引き起こしたのだ。
勇者の身であれど、あんな軽症で済むはずはない。なら、100万匹融合したという魔物の影響か?
「ハァハァ、良くもやってくれたわね」
「本当に化け物だな」
同じ事されたら生きてる自信は、ショウにはない。ましてや、腕を生やすなんて人間を…………というより生物を辞めてると言った方が正しいか。
いくら魔法が進んだ世界でも体の部位を生やすなんて芸当をする生物なんて中々いない。
「アタシの服が破けちゃったじゃない」
気にする事はそこ?いや、確かに目のやり場には困るが。胡桃が少し動けば、胸がポロリと見えそうである。
いくら体が頑丈でも服はそうはいかない。だが、服も腕同様に生えて来た。
「うん、これで良し」
「それで良いのか!」
体内に取り込んでいる魔物で衣服ぽい何かを作ったのだ。ショウなら気持ち悪くて、やりはしない。
「もう、1万も使っちゃったじゃないのよ」
それでも98万と後半は残ってる事になる。途方もない数字に見える。だが、まだゴールを示されてるだけマシか。
プンプン
「もう怒った。ここからアタシも本気でいっちゃうんだから。赤の聖斧ルージュ」
緑色をしていた刃先が赤よりも濃い色合いに変化した。それはまるで、太陽を斧に加工したような雰囲気を醸し出している。
「シリーズ系を使えないんじゃ?」
「クスッ、誰が使えないと言ったのかな?」
確かに胡桃自身から言ってないような気がする。でも、なら何で今頃になって使ったんだ?!
「切り札は最後まで取っとくものよ。それに、アンタみたいに驚く顔を見るのって最高じゃない?」
「クッ」
油断した。いや、勝手に決め付けていた。同じシリーズ系統の技術を使えるとなると厳しい戦いなるし、本来なら国一つを潰せる程の戦いになる事必死だ。
「行くわよ」
「来るなら来い」
だけど、【青空世界】なら周囲に何もないし思う存分に力を振るえる。
例外はあるが、いくらシリーズ系統でも世界を壊すのには至らない。
「喰らいなさい【大噴火】」
ルージュの刃から液体状の溶岩が吹き出し、ショウの上空を覆う。溶岩の熱で、汗が吹き出して止まらない。
「クッ、【大氷塊】」
溶岩が降り注ぐ前に巨大な氷塊を当て、溶岩を散らす。氷塊は溶岩の熱で跡形もなく蒸発したが、その勢いで溶岩も吹き飛んだ。
まさか、いきなり溶岩を放って来るとは正直なところ、かなり焦った。いくら気圧が低いとはいえ、溶岩の熱の方が高い。
「どんどん行くわよ【大噴火・刃】」
「負けるかぁ【大氷塊・刃】」
早く決着をつかないと溶岩の放射熱で、こちらの方がバテてしまう。いくら、体が頑丈とはいえ、生物学上で水分が無くなれば死ぬ可能性が出てくる訳である。
(早くしないと。ヤバい)




