207食目、斧vs斧その6
胡桃の間合いに入らなければ大丈夫のはずなのだが、【威風堂々《エンリル》】の追加効果として速度上昇がある。
この速度上昇も意外と厄介で、超高濃度に圧縮された風はジェット機並みに…………最高速音速を超える。
ここがショウの作りし世界である【青空世界】である点とショウが勇者である点が無かったら首と胴体はサヨナラしていた。
ブゥーン
間一髪で身体を仰け反り、エンリルがショウの顔面すれすれを横切った。
いや、まただ。
【威風堂々《エンリル》】により全体が武器と化してる胡桃の体の一部何処でも当たると致命傷になりかねない。
胡桃もそれは分かってるようで、音速に近い速度で打撃という名の斬撃を繰り出していく。
「くっ」
離れなくてはとショウは距離を取ろうとも胡桃は、それを許してくれない。紙一重で躱す攻防が数分間繰り返された。
「奥義は使えないはずじゃ」
「誰が使えないと言いました?切り札は、取っとくものです」
胡桃に攻撃しようにも下手に攻撃したら弾かれ腕が逝かれてしまう。それに技術を使う隙がない。
少しでさえ、胡桃に隙を生じする事が出来れば青の聖斧ナギの奥義で直ぐに決着は着く。
だけど、常に胡桃が張り付いてて、その隙が出来ないでいる。そう胡桃から距離を取ろうと、どうにか逃げてる内にとある事に気が付いた。
「うん?これは」
俺ってバカだ!何でこんな簡単な事に気が付かなかったのだろう?ここ限定で足を使い大気を掴むような感覚で空中を移動出来るなら、手でも掴む事が出来るのではないか?
ガシッ
うん、掴む事が出来た。逃げてる最中に変な感覚があったから掴んでみたけど出来てしまった。
これは案外、楽に隙を作れるのではないか?
「これをこうやって名付けて【空壁】」
大気をグニャリと粘土のように変形させ、目の前に見えない壁が出来上がった。
「何か前にあるのよ」
強度はそれなりにあるが、【威風堂々《エンリル》】の前では数秒しか持たない。
だが、その数秒の隙が今では貴重だ。その数秒を積み上げ、俺の奥義を繰り出すための布石にする。
「何かやってるようだけどね。無駄なの分かってるでしょ?良い加減に諦めたら?」
本来なら【青空世界】によって技術を使うなら、魔力を大量にはずだ。それなのに、汗一つも搔かずに奥義を継続している。
「チッ、【青空世界】の効果を吹き飛ばしているのか」
ビュン
「正解。今のアタシには、どんなデバフは効かないのよ」
近付けば微塵切り、肝心のデバフも効かない。魔法は、そもそも持ち合わせていない。
だが、【青空世界】限定で、魔法みたいな真似事をやってのけられる。
「これならどうだ?【雲槍】」
空なら、もちろん雲はそこら中に浮かんでる。それらを突起物に変化させ胡桃へと襲い掛かるように操作した。
今度は、雲だから白くて見える。だから、【威風堂々《エンリル》】の速度を生かして回避し続ける。
まるでミサイルに追われてる戦闘機やSFに出てくるロボットのように回避する様子は、敵ながら賞賛するしかない。
別に手加減してる訳ではない。胡桃の方が異常なのだ。【威風堂々《エンリル》】による速度が強化されてるとはいえ、あの見切りは天性のものか?
「遅いです。止まって見えるよ?」
掠りもしない。ヒュンヒュンと紙一重で避けられる。だけど、変化させられるなら操作も出来る。
「これならどうだ?」
一回は外れた【雲槍】は、半回転し胡桃を追い続ける。避けても避けても追い続ける。
「しつこい男は嫌われるの知らないの?」
【雲槍】に追われながら、そう胡桃が呟く。ズキリと心の片隅が痛む感覚があるが、きっと気の所為だ。
シュウが地球にいた頃、女にモテた記憶はない。むしろ、暑苦しい性格であったと自覚している。
だから、それがどうしたと言うのだ。俺は、汗水垂らして体を鍛えて抜いた筋肉はウソをつかないと信じてる。
「魔物の言葉なんか、俺の心には届かないな。もう【雲槍】に殺られちまえ」
まだ、何処か甘い考えをしていたかもしれない。俺は、心を鬼にして全方面から【雲槍】で覆い尽くした。




