205食目、斧vs斧その4
「大きいだけじゃない【竜巻旋斧斬】」
胡桃は魔力を込めて放った。大きさは同程度までになり、ぶつかりせめぎ合う。
ぶつかり合うだけで、衝撃波が辺り一面に拡がり建物のガラスが割れた。
「なっ!相殺しきれない」
胡桃の言う事は、半分は合ってる。だが、半分は間違ってる。それを理解するのに、もう1ターン掛かった。
「まだよ。【竜巻旋斧十字斬】いけぇぇぇぇ」
十字に【竜巻旋斧斬】を重ね合わせ放つ。交差する中央部分の破壊力は、通常の【竜巻旋斧斬】の5倍、魔力の上乗せで凡そ8倍に跳ね上がってる。
普通ならこれで相殺は愚か【真・海割り】を突き抜けてショウに当たるはずだ。だが、そうはならなかった。
【竜巻旋斧十字斬】が拡散し、今だに【真・海割り】が胡桃へ向かって来てるではないか。
「そ、そうでした!何故、忘れていたの?青の技術は、全てを無効化にする」
正確には、ショウのポテンシャルよりも格下の技術や魔法を無効化するというもの。
まぁ同じ勇者でない限り、無効化は出来ないと思われる。胡桃の場合は、属性系の奥義とシリーズ系を使用出来ないという点で格下と見られた。
胡桃の攻撃が無効化されたという事は、そのまま胡桃の元へショウの攻撃が今も向かってる。
「これは避けられないね。何匹か犠牲にしちゃうけど、【50匹の魔物壁】」
胡桃の腕から肉片が次から次へと溢れ出し身長の十倍はあろう肉壁を形成された。
その壁は生きてるようで、所々ドクンドクンと波打つのがショウから見ても分かる。
ドクンドクン
「さぁアタシを護ってちょうだい。モンちゃん達♡」
『ギャォォォォォ』
胡桃から這い出た肉壁は動くようで、【真・海割り】を防ぐように立ち止まる。
そして、【真・海割り】を受け止めた。消滅する事なく肉壁は耐えており受け切った。
『ギャォ』
「なっ?!受け切っただと!」
「良くやったじゃない。モンちゃん達♡」
だけど、受け切った代償は大きいかった。肉壁は徐々に崩れさり、肉壁の一部にある手が胡桃に向かって親指を立てた。
まるで、胡桃の勝利を臨んでるかのように。
「モンちゃん達?!良くも殺してくれたわね」
「いやっそれは…………俺が悪いのか?お前が出したんだよね?」
自分を守るために出したんだよね。それを俺が壊したから怒るのはお門違いというものだ。
それに胡桃は元人間で元勇者なだけであって、魔物だ。元に戻す事は出来ない。殺す事がせめての手向けになるはずだ。
「問答は無用よ。【風神の具足】からの【風分身】」
足首周辺まで風が渦巻いてる状態の胡桃が十数体現れた。誰が本物なのか見た目だと判断つかない。
それに加え、空中を泳ぐように斧の勇者とは思えない速度で掛け巡ってる。
「はぁぁぁぁ、これで殺してあげる」
四方八方から胡桃が襲い掛かってくる。こういう場合、魔力探知で偽物と本物を見分けるのが通説だが、魔法に疎い勇者は魔力探知が出来ない。
「俺、こういうのからっきしなんだよなぁ。取り敢えず、そこだ」
「ハズレ」
ショウは昔からクジ運は無く、高確率で最低の物品しか当たった記憶しかない。だから、ギャンブルやらない。
「仕方ねぇな。あれをやるか」
「何をやっても無駄よ」
襲い掛かる胡桃達を無視して集中する。
「すぅぅぅぅ、【青空世界】」
そうショウが唱えた直後、閃光みたいな光が周囲を覆い尽くし次に目を開けた時には不思議な空間に二人は浮かんでいた。
「ここなら遠慮なく殺れる」
「ここは?!」
「ここは【青空世界】の中、青の聖斧ナギで作り出した世界。俺と胡桃しかいない」
まるで、360度青空が広がってるような空間で上下左右の感覚が麻痺ってしまう不思議な感覚がある。
どちらが上で下なのか分からない。
「俺が死ねば、ここから出られる。俺を殺すしか、ここから出られない」
「世界持ちだとは油断しました」
例外的に世界そのものを壊すという選択肢もあるが、それは現実的ではない。よっぽど戦力差があれば可能だが、世界持ちに限って弱いという事はあり得ない。
問題は、この世界がどのような特性を持ってるって事の方が重要である。




