204食目、斧vs斧その3
風と水が激突する。風の刃は水の壁に阻まれ届かず、その逆も然り。物量にものをいわせた水の斬撃も風に拡散され届かない。
ブン
「おりゃぁ【海割り】」
ショウが思いっ切りマリアを振り上げ降ろすと、地面を抉りながら衝撃波が胡桃へ向かっていく。
近くにある瓦礫や建物を砂状へ変え、その周辺にいた魔物は巻き込まれ即死だ。
「普通の冒険者なら兎も角、そんな弱っちい攻撃でアタシを殺すなんて夢のまた夢よ?もしかして、手加減してる?」
「手加減なんかするかよ。俺は何時だって全力だぜ」
「そう、なら死ぬわよ」
胡桃は特に技術は使わずに、ヴァイキングの刃先で受け切った。マリアの鎮静の力で弱体化してるとはいえ、【海割り】を受け切るとは本来ならあり得ない。
だけど、実際には受け止めている。俺が弱くなったんではない。胡桃の強さが元に戻りつつあるのだ。
「気付いてる?アタシの風でアナタの水が吹き飛ばされてる事を」
あぁ、気付いていたさ。
風の隠れた能力にデバフ解除があるのだ。だが、それは滅法時間が掛かり実戦では、先ず使えない。
だけど、勇者となれば話は別となる。勇者の聖武器を完璧に扱う技術により格段にデバフ解除が大幅に上昇してる。
直ぐに解除は無理でも実戦で耐えうる効果を発揮出来る。それに回復や【鎮静】に特化した水よりも鋭利さ特化の風の方が攻撃は上といえる。
だけど、やるしかない。
「はやっ」
速度は云わずもながら、あちらの方が軍配が上がる。聖武器の中で、聖槌の次に鈍重な部類になる聖斧でも風の力を授かれば、ここまで早くなるのかと合わせるのにやっとだ。
「遅い、【竜巻旋斧斬】」
「グッ、【水神斧の盾】」
もう少しで防御が遅れていれば、俺の右腕はなかった。それでも吹き飛ばされ、上空5mから地面へと叩き落とされた。
普通なら悶絶するだろうが、そこは勇者だ。地面に叩き落とされても瞬時に起きられる。
「ふぅ、危ない危ない」
「チッ、勘の良いやつだ」
「それも実力の内だ」
だけど、このままではジリ貧なのは変わりはしない。なら、戦い方を少し変えてみようか。
「青の聖斧ナギ」
「なっ?!」
聖斧マリアのシリーズ系は『色』だ。色により能力は様々で青の能力は単純に水の強化版だ。
ただし、シリーズ系は属性を大きく凌駕する。ただ強化されただけなら恐れる事はない。ないが、胡桃は冷や汗が止まらない。
「ふぅ、お前もなれよ?」
「あ、アタシはこれで十分にお前を倒せる」
「少し変だと思っていた事がある。最初からシリーズ系のどれかを使えば、俺を圧倒出来たんじゃないかってな」
属性系よりも能力が上なシリーズ系を使っていれば、ものの数分で勝負がついていた。だが、胡桃はそうしなかった。
ショウの場合は、タダ単純にシリーズ系の聖斧を開放するための魔力が足らなかっただけの事。それを戦いの最中、練っていた。
だけど、胡桃は違う。様々な魔物を合成して造られた合成獣のララの一部。
その大量の魔物の魔力があれば、シリーズ系を難なく使用は可能なはすだ。
しかし、それをしないのは何故か?自ずと答えは絞られる。
「もしかして、使えないんじゃないか?むしろ、聖斧マリアに拒絶されたんじゃないか?拒絶されても、元勇者だ。奥義以外の属性系の技術は使えるだろうな。だが、それが関の山だ」
「なぁんだ。そこまでバレてちゃ、しょうがないわね。そうよ。使えないわよ。だから、それがなに?全然問題ないわよ。この中にある魔物の魔力で上乗せすれば、無問題よ」
肌がピリピリする。胡桃から立ち登る魔力で大気が震えて、まるで地震でも起こってるんじゃないかと錯覚を感じる程だ。
確かに、これ程魔力が高けりゃぁ奥義やシリーズ系を使えなくても奥義並みに強力な技術が使えるだろう。
「ふん、お前……………胡桃も分かってるはずだ。それでも覆す事が難しいのがシリーズ系なのを」
今から見せてやる。原色の一つである青の能力を。
水属性の強化版と述べたが、それは半分正解で半分不正解だ。タダ単純に強化されただけなら凌駕するとは述べたりしない。
「行くぞ。おりゃぁ【真・海割り】」
水の聖斧マリアで放った【海割り】と比べると段違いに大きさが違う。最初の方が子供の遊びと思える程に大きい。




