203食目、斧vs斧その2
「グッィィィィ、効いたぜ」
黒炎により焼け爛れたショウキの右腕は、今だに燃えてるかのように熱を帯びて満足に動かせないでいる。
「地獄の炎である黒炎は、永遠の呪いとして解ける事はない。死んでも尚、魂に刻まれ地獄に落とされるのよ」
ただの炎じゃないと思っていたが、まさか呪いの炎だとは無知は罪だと良く言うものだ。
「なら、何故ララには効かない?俺は、これで腕を切り落としたぞ」
「ララ様は合成獣。他の魔物が代わりに受けただけの事。それに、次からララ様の事を呼び捨てにしたら許さない」
ヤバい、黒炎を維持したままクルミが突っ込んで来る。左手だけで、どれだけ振るえるか分からないがやってやる。
ガキン
「右腕が使えないのに、良く頑張るね」
聖斧マリアを扱う勇者として腕力は必須ステータス。それに両腕と片腕では、やはり両腕の方が勝る。
いくら聖武器が壊れないといっても弾かれ胴体がガラ空きになっては意味がない。
「グッ、まただ」
普通は死を覚悟する場面かもしれないが、ショウキはまだ諦めていない。まだ聖斧マリアの力の一部しか使用していない。
「な、なに!」
クルミの振るう炎の斧の刃は、ショウキに当たる事はなかった。当たる寸前で、見えない何かに阻まれ刃が進まないでいる。
「ふぅ、間に合ったか。水の聖斧マリア、技術としては拙いが、水属性の魔力を全身に纏った」
水は炎を消すように、水の薄い膜でも黒炎の刃は通らない。例外として相当実力差が数倍離れていた場合は通るかもしれないが、同じ勇者でそうそう実力差が離れる訳はない。
「黒炎で焼いた腕も」
「これで動くぜ」
攻撃よりも癒しの能力が高い水属性。極めれば、どんな呪いでさえも忽ち癒やしてしまう。
だが、その反対も叱り。癒しの力も強過ぎれば毒になる。最も扱いが難しいとされるのが、光と闇その次が雷とされるが、水もまた制御が難しい属性の一つである。
そして、もう一つ水には癒しの効果の他にも効果がある。
「炎が小さくなってるぜ」
ショウキの指摘通りにクルミの斧に纏ってる黒炎が刃の一部しか灯っていない。
先程のショウキが纏った水属性の薄い膜に触れた瞬間、消火されたみたいに8割程黒炎が消えたのだ。
「おらおら、どうした?動きが鈍くなってるぞ」
「くっ!」
大半が水属性の魔法や技術だと癒しによる回復か何らかの攻撃に使うが、もう一つ隠された効果が【鎮静】だ。
その言葉の意味は文字通りで、クルミの黒炎を8割消したのも【鎮静】の効果であり、それだけじゃ止まらない。
クルミの動きが悪くなってるのも【鎮静】の効果の一部。水の聖斧マリアが発する水属性の魔力に触れた物は自分以外は全て動きを鈍くする。
癒しの回復よりも【鎮静】に特化した水の聖武器がホヤウカムイなのだ。
「お前も水に変えれば良いじゃないか」
「嫌味を言って楽しい?」
本来なら同じ水属性に変え相殺するか、水属性の弱点である土属性で防御するか雷か光で速度を上昇させ、目に止まらぬ攻撃を仕掛ければ良い。
だが、水属性の【鎮静】で緻密な制御が必要な水属性は暴走しやすくなっており、自分自身を気付ける羽目になる。
雷と光も然り、水属性の【鎮静】により得意な速度が出せないでいる。
土属性に関しては、属性一鈍重なためタダの動かない的となってしまう。
残るは、風・炎・闇の3種類。炎は真っ先に鎮火されるからNG。闇はハッキリと言って微妙としか言いようがない。
とすれば、水の【鎮静】の影響下では風が今の中で扱いやすい。
「なっ!マリアの刃が届かない」
クルミを囲うように風の障壁が覆う。風が邪魔で、弾き返されてしまう。
「何か誘導されたみたいで癪だけど、仕方無いわよね」
結果は分かっていたが、いざ目の前にすると失敗したのではないかと思う。
いくら【鎮静】で鈍くしても風の方が圧倒的に手数が上。宇宙とか真空にならない限り、空気は何処にでもあるし他の属性と違い無くならない。
だが、風と比べると手数は減少するが水も多い方である。
「風の聖斧ヴァイキングで切り刻んであげる」
「やってみろ」
クルミを中心に渦巻く風で近くの瓦礫が細かく劈く。攻撃特化が炎であれば、風は鋭利さ特化である。
どっちみち喰らえば、タダではすまない。




