202食目、斧vs斧
「ふぁわぁ、おはよう」
ララが変身した女の子からララとは似ても似つかない声が発しられた。逆を言えば、今の女の子姿で発すれば納得する程に似合う声だ。
「よっこいしょ。ねぇ、あなたが今の斧の勇者?」
「あぁそうだ」
「ふぅーん、そう今回は男なんだ」
ネットリとこちらを隅々まで観察してくる。この女の子の正体が何なのか?およその予想はついてるが、一応聞いてみる。
「お前が、前の斧の勇者なのか?」
「そぅだよぉ。それとお前ってヒドくない?」
特にヒドくはない。ララが変身してると割り切ってるから。そう、割り切ってる。だから、遠慮なく殺れる。
「おっりゃぁぁぁぁぁ」
ガキーン
「いきなりヒドくない?まだ名前を名乗ってないのにさぁ」
「敵には違いないだろ」
「アハッ、そうだねぇ。とぉ」
「グハッ」
斧の刃同士が交差してるところに前斧の勇者である女の子の蹴りがショウキの脇腹に入った。
「アタシの名前は、久野胡桃。お兄さんの名前は、岡崎翔貴で合ってます」
「ゲホッ、あぁ合ってるぜ」
蹴られた脇腹がズキズキと痛む。あの体格からどうやってこんな強力な蹴りが出たのか疑問だ。
やはり勇者なだけはあるか。
「なぁお前は」
「胡桃です」
「く、クルミは勇者なんだろ?今なら抜け出せるんじゃないか?」
クルミを絶対に殺れるという気持ちだったが、自分でも不思議で今なら仲間になれないかと心変わりが起こってる。
「それは無理」
「諦めなきゃ無理じゃない」
「どうても無理なのよ」
仲間に誘うもクルミは拒絶する。理由があるなら解決したいとショウキは考える。それだけの力が勇者には、きっとあるのだから。
「だって、色々混ざってしまってるんですもの」
ララと同じく衣服を割いて胸元を見せて来た。そこには無数の魔物が蠢いてる。それを見た途端にショウキは吐き気を催した。
まだララの場合は、魔物と認識していたおかげで気分を害さなかった。
だが、同じ魔物でもクルミは同じ勇者だった。だから、自分の体中にあんな魔物が蠢いていたらと考えるだけで、ゾッとする。
どうにかして助けてやりたいが、あれではもう助ける術はない。
「何で泣いてるの?敵同士なのに」
「うるせぇ。これは……………汗だ」
本当に戦うしかないのか?最初は殺すとしか思ってなかったのに、今は助けたいと頭の中で色々思考を巡らすが良い考えが浮かばない。
「来ないなら、アタシから行きます。はぁぁぁぁぁ」
「グッ」
タダ刃を交差するだけで押される。あっちは手加減なし、こっちは幾らか筋肉が強張ってしまい、いつも通りのパフォーマンスが出来ないでいる。
「助けたいと言うのなら、手加減なしで殺してください。身体はありませんが、魂は囚われてます。アタシを殺して解放して」
「くっ、クソぉ!どうにもならないのか」
頭の中では殺すしかないのは理解してる。してるが、助けたい気持ちの方が勝ってしまう。
そのため、うっすらと涙を流しながらも刃を振るい続ける。これがクルミを助けると信じて。
『詰まらないねぇ。やる気がないなら、アチキに代わりな』
「いいえ、殺らせて。現斧の勇者をララ様の贄になって貰うから」
『そうかい。あんたと一心同体だから殺られる事は許さないよ』
何やらブツブツとクルミが独り言を呟いてる風にショウキには見える。呟きが終わると、ショウキに向けて殺気を飛ばした。
一瞬怯み思わず後退してしまう。故郷である地球を含め、これ程の殺気を喰らった事はない。
「な、なんて殺気だ」
「今から本気で殺りますから死なないでね」
「えっ?!」
当然ながら俺が使用出来る技術は使用出来る。それに前斧の勇者……………先輩なだけはある。
俺よりも技術の使い方が上手いというか、練度が上だ。
「はぁぁぁぁ【炎斧:閻魔】」
「クッ【炎斧:閻魔】」
黒炎に包まれた刃が交差した途端、衝撃波を生み周囲の建物の窓ガラスがひび割れた。
一見、互角かと思われたがショウキの方がやや押され気味。それに黒炎の維持時間の短さという弱点が露わとなり、ショウキ側が先に黒炎が消えてしまい吹き飛ばされてしまう。
その際にクルミの黒炎によりショウキの右腕に火傷を負わせた。




