201食目、斧vs合成獣その2
合成獣は勇者の故郷である地球でも有名な生き物だ。だが、それは架空や想像上が前に付く。
それでも片手で足りる程の生き物しか合成はしないはずだ。そもそもこの異世界にも合成獣という魔物はダンジョンや自然界には存在してないという。
タダ一つ、人工的に創り出したという事を除いては。魔導師の中には研究畑の人も多く、その研究テーマの中には魔物も含まれており、合成獣もその内の一つである。
「数匹程度の合成獣の成功例は聞いた事があるけど」
「それは俺が天才なだけの話だ。こいつら全員、俺が作ったのだからな」
「くふふふふ、そのお陰でこっちも美味しい想いをしてるのさ。作ってくれなきゃ、こうやって息を吸う事も出来なかった」
数秒間、次にララが話すまで、その一瞬だけ情けを掛ける気持ちになり掛けた。矛を収めようかと炎の聖斧ヘルメスを下ろした。
「こんなに美味しいとは思わなかったな。特に勇者はね」
ウットリと頬が蕩けてるようだ。それはまるで愛おしい人を愛でるような笑顔で、ゾクリとショウキの背中がガタガタと震える。
「まるで勇者を食べた事がある言い草だな」
「あるわよ。今の勇者じゃないけどね」
上目線で睨み付けられ、カエルが蛇に睨み付けられるように足が動かなくなる。
これはヤバい。早く動かないと殺られる。動け…………動け…………俺の足。
「ほぉ、今のを避けるか」
「ハァハァ」
あ、危なかったぁぁぁぁ!先程、自分がいた場所には、カマキリの鎌と思われる物体が突き刺さっていた。ただし、大きさは人間よりも2回り程大きい。
「あ、あれはマンティスの鎌?!」
昆虫型の魔物で簡単に言えば、人間より2回り程大きいカマキリだ。
あの鋭利な鎌に捕まれば、先ず助からない。鉄なんか一刀両断で、人間の体なんか言わずもながな。
タダ例外があるとすれば、ミスリル以上の硬度を持つ鉱石やそれらの鉱石を取り込む魔物、ドラゴンの鱗ならマンティスの鎌を通らないはずだ。
「そうさね。意外にと切れ味が良いから重宝してるのよ。それにリーチがあるしね」
リーチだけという利点を取れば、剣よりも槍の方が優れてる。ただし、間合いの距離が取りづらく突くという点攻撃のため意外にと命中精度は低い。
その反面、マンティスの鎌は変幻自在に間合いの距離をある程度変えられる。
「このマンティスの鎌を貴様は受け止められるかな?」
ガキン
「ふぅ、危ない危ない」
いくらマンティスの鎌が鋭利だとしても聖武器である聖斧マリアを壊せない。
「聖武器の特性を忘れた訳ではあるまい」
「【不壊】」
それを用いる事で最強の盾にもなり得る。聖武器全般が内包してる付与魔法だ。
「クククククッ、忘れていた。それなら仕方無いねぇ。なら、アレを出すしかないじゃないか」
マンティスの鎌が袖の中へ収納され、代わりにララの腕が出て来た。ただ手元に斧らしき武器を握っている。
「おい、その武器はどうした!その形状はまるで」
色合いこそ違うが、形状は俺が持ってる聖斧マリアと瓜二つだ。
「それは見た事あるでしょう。聖斧マリアのレプリカなのですから」
レプリカ?
「本物じゃないのか?」
「本物に近いと言っておきます。なにせ、前斧の勇者をアチキが食べたのだから。アチキは、食べた者の魔法や技術に至るまで扱う事が出来るのでさ」
そう言うと、ララが持ってる斧に炎が灯った。炎の聖斧ヘルメスそのものだ。
「ヘルメスだったか?」
「何故、お前が使えるんだ!」
聖武器は、勇者しか使えないはずだ。それなのに平然と技術を使用している。
「何故って、アチキの中に前斧の勇者がいるからだ。そして、こういう事も出来る」
バキバキと骨が折れるような嫌な音が響き渡る。この音が止んだ後のララの姿がショウキよりも身長の低い女の子となっていた。
「ふぅ、【擬似変身】は疲れる」
「そ、その姿は!」
「何って、前斧の勇者に決まっているだろうが。ちょっと待ってろ」
ララの面影は一切なく、何処にでもいそうな女の子だ。ただ聖斧マリアを持ってる以外は。
「よし、出て来い」
右手で頭を押えながら独り言を呟くララ。そして、カクンと糸が切れた人形のように地面に座り込んだ。その数秒後、驚きの事が起きた。




