200食目、斧vs合成獣
「なっ!切れないだと!」
今現在の炎の聖斧ヘルメスの温度は、2000度以上はある。こんな高温なら鉄の剣なんかバターように力を入れずに溶断出来る。
「確かに普通の剣だと切れていたかもねぇ。だけどねぇ、これはトップクラスで硬い魔物の剣だ。ミスリルを切れないとダメだね」
ミスリルだと!
ミスリルとは、別名:神鉄と呼ばれる程に丈夫で柔軟な金属だ。これで作られた武器は、一種の冒険者のステータスとして装備する事に憧れる者が多い。
それに魔法抵抗が小さいため簡単に属性付与が出来る特性がある。例えば、飛ぶ斬撃だったり炎の刃だったりと戦闘の幅が広がる。
その反面、入手しても加工が難しく鉄よりも溶解温度が数段と高い。だから、ミスリル製の武器は一端の冒険者では、先ず手が出せない。
ガキガキっガキン
「やはり勇者だねぇ。太刀筋はそこら辺の冒険者の頭数段上をいっている」
「褒めて貰っても嬉しくねぇよ」
つ、強い。今まで倒して来たどの魔物よりも段違いに強い。知識が付くと、ここまで強くなるものなのか?
「アチキの事、強いと思ったぁ?」
「?!」
心を読まれた?口には出していないよな。
出会った事はないが、魔物の中には相手の心を読むという技術を持つものがいると聞いた事がある。
まさか!
「正解。アチキは合成獣。色んな魔物がアチキの身体に入ってるの。サトリという心を読む魔物もいるわよ」
「サトリだと!」
サトリは魔物でありながら、まるで種族のように意思疎通出来る数少ない魔物の一つである。
シュウキも出会った事があり、見た目からは人間と対して変わらない。ただ一つ心を読む事を除いては。
「いやぁ苦労したねぇ。なにせ、心を読むんだからな。こっちの攻撃が当たらない当たらないって」
「何処のサトリを狙った?」
「うん?確か、シンゲン村だったか?」
シンゲン村とは、サトリが住むという幻の村の一つ。純粋な心の持ち主や勇者しか行けないと言われている。
そのシンゲン村には、シュウキも訪れた事があり仲良くして貰った。
「てめぇ、許さねぇ」
「おっと、危ねないねぇ。もしかして、知り合いでもいたのかい?」
ふと違和感を感じた。心を読めるのなら態々質問をする必要はないはずだ。つまりは、インターバルがあるか自由に聞けないかのどちらかだ。
「先ずは、その剣を焼き切ってやるよ。【炎斧:閻魔】」
心を読まれる前に先手を打つ。
赤い炎から黒い炎へと変化した斧を見るや否や、ララは本能からヤバいと察した。
あれを受け止めるのはダメだ。
心を読まなくても分かる。受けた途端に身体の一部を持っていかれると、身体の中にいる魔物達の本能がララに訴え掛けてくる。
ズーン
「逃さねぇよ」
これは回避出来ない。だが、受け止められない。それ故にララが取った行動は、少しダメージ覚悟で体を捻り腕の一本を差し出した。
「チッ、体を捻ったか」
切り裂いた腕は空中に舞い上がり、剣諸共燃え盛り灰と化した。灰となってはくっつける事は出来ない。
「それは地獄の炎かい?」
「知らねぇよ。地獄なんざ行った事ないからな」
「そうかい。その黒い炎、ずっと維持は出来ないようだねぇ」
ララの言う通り腕を切り落とした後、黒い炎から普通の赤い炎へと戻ってしまった。これは、まだ未完成な技であり、物凄く体力を消耗して連発出来ないのである。
「でも、その腕を切り落としたぜ」
「ふん、腕の一本や二本安いものだね。ほら、こんな風に腕を生やす事も出来るの」
腕が生えるというよりは、腕の切り口から肉が膨張し、それが腕の形となると言った方が正確だ。
ただグロ耐性がない者は見ない方が良い。本当に生々しくて漫画ならまだしも、現実で見たならグロ耐性があってもリバースしてもおかしくない。
「これで残りは、99万9995匹分かしら」
「本当に100万匹の魔物を取り込んでいたと言うのか?!」
「あら、信じていなかったのですか?」
「信じられる訳ないだろう」
衣服と肌を引き裂いて見せてくれただけでも、およそ50匹程度に見えた。それに100万匹の魔物が、あの体に収まるとは到底思えない。物理法則を無視し過ぎてる。




