199食目、槌vsマンティコアその2
魔法による攻撃をさせないためには、第一に詠唱が完成する前に魔導師を攻撃や妨害で詠唱を中断させるのが一番効率が良い。
『グハッ』
「ほらっ、もういっちょう」
サクラのスイングが早過ぎて目で追えない。マンティコアが魔法を唱える隙がない。
ブンっブンっブンっブンっ
『ゲホッガハッブホッゲフッ』
不細工だったマンティコアの顔が更に不細工と成り果てる。ちょっと可愛そうになってくるが、マンティコアは魔物。手心を加える必要はない。
「アッハハハハハ、ここまで殴っても意識があるとは頑丈だね」
『ゲフッ、オデが悪かったから許して』
「うーん、どうしようかしらね」
『こ、この通り』
マンティコアが人間顔負けの土下座を器用に足や腰を曲げて実演してる。最初は、あんなに気迫があったのに、今となっては型無しだ。
「うーん、何か可愛そうに思えてきたな」
『そ、それじゃぁ!』
「でーも、ダーメ。ここで死んで貰うから」
ニコニコと笑顔のまま雷の聖槌ミョルニルを振り上げ、音を置き去りにして振り下ろした。
だけど、そこにはマンティコアはいなかった。その代わりに小さなクレーターが出来ていた。
『ハァハァ』
「もう避けないでよ」
『それは断る。オデは帰るのでな。帰還魔法【帰還】』
「させないよ」
サクラのスイングは空振りに終わった。マンティコアの姿は、何処にもなく勇者の【感知】にも引っ掛らない。
「あーあ、逃しちゃったか。ショウの方はどうなってるかな?」
少し時間は遡り、ショウキが合成獣のララを真っ二つに切り裂き爆発させ、腹辺りから2つに分かれ倒れている。
「これで、残りはお前だけだ。《教皇》」
「クッククククカァァァハッハハハハハ」
召喚した魔物が倒されたというのに腹を抱えて甲高い声で笑い出す《教皇》。
「何がおかしい」
「これがおかしくて、誰だって嘲笑ってしまうわ。お前の目は節穴か?ほれ、さっさと起きろ」
「もう、バラすの早過ぎよぉ」
死んだはずの合成獣のララの上半身から声が聞こえた。身体を真っ二つにされて生きてる魔物なんて聞いた事がない。
「奇襲で楽にコレクションに加えられると考えていたのに」
「それは悪い事をした。でも、お前なら楽に捕らえられるだろ?」
「それもそうさね」
合成獣のララの上半身と下半身の切り口から百足ぽい魔物らしき物体が、ウネウネと這いずり回り上半身と下半身が結合、合体した。
「うぃ、よっこらっせっと。いきなり真っ二つとか酷ぇな」
何事も無かった風に起き上がる。傷口は既に塞がっており、どういう原理か服も元通りだ。
「今ので死なないとか、マジで化け物なんか!」
「まぁ化け物なのは認めるわ。なにせ、アチキの身体は百万の魔物を飼ってるさかい」
ビリビリと自ら服を破いて見せて来た。純粋な男なら目を反らす場面だが、目を離せないでいた。
何故なら、服の向こう側は肌じゃなくて、デカい虫やらゴブリン等の小型の魔物が蠢き合ってる。
ソンビや虫が蠢くパニック映画に耐性がない人が見れば、グロ過ぎて吐き出すに違いない。
「ぐっ、身体の中に魔物か!」
「クックックッ、怖じ気づいたかい。そうアチキは合成獣のララ。百万の魔物の大群と戦った事あるかい?」
一般の冒険者なら自分の命の欲しさに100%逃げ出す事だろう。
だけど、俺は逃げる訳には行かない。勇者が逃げては人々に希望が失くなる。
「あるぜ。楽勝だ。コラッ」
「クックックッ、威勢が良いねぇ。それがウソか真か…………試してやるさね」
口から出たデマカセだ。だが、拡がっているよりも一個体に纏まっていた方が、まだ勝てると……………勝算はララを見た時からあった。
破いた服を前に戻すと、またもや元通りに戻ってる。
「先ずは、これさね。【武器虫:剣】」
腕よりも数十cmは長いヒラヒラした袖から剣の刃だけが出て来た。魔物が勇者相手に武器で戦うとは愚の骨頂。
「おりゃぁぁぁぁ、【火炎斧】」
ガキン
本来ならバターのように相手の武器を一刀両断する炎の斧が、ララの剣に阻まれた。




