198食目、槌vsマンティコア
『あち、あちち』
まさか自分が放った【火炎玉】が跳ね返って来るとは思わず、まともに喰らってしまった。
「やっぱり頑丈ね。【火炎玉】では、表面を焦がす程度しかならないわ」
まるで頑丈な甲羅にでも護られてるみたいに焦げる程度で、ほぼ無傷だ。やはり魔法を扱うからには、魔法抵抗も高い。
『ぐへへへっ、強い女ほど、肉は美味い』
「気持ち悪いわね」
マンティコアと戦ってる内にショウキと結構離されてしまった。一人でSランク以上の魔物を倒すなんて本当なら自信はない。
だけど、やらないと自分が殺られる。
「アタシだって、やる時はやるのよ。雷の聖槌ミョルニル【雷神鎧】」
バチバチと雷を纏う手先から腕を覆う篭手と足先から膝まで覆う佩楯と臑当が出現し、サクラはそれを装備。
「からぁのぉぉぉぉ【巨人強化】」
巨人族は、種族一の強化魔法の使い手。本来、山程の大きさになれるはずなのに、態々人間サイズまで小さくなってるのは強化魔法を使うため。
巨人なるためのエネルギーを強化魔法へ変換してるのだ。態々巨人になって相手を倒すよりも強化魔法を使用した方が効率が良い。
魔法が苦手な勇者の一人であるサクラも巨人族特有の【巨人強化】なら使える。むしろ、巨人族一と言っても過言ではない。
「いっっっっくぅぅぅぅぅよぉぉぉぉ」
『オデより早い?』
雷と強化魔法の重ね掛けで、とんでもない速度となっている。
その速度で雷の聖槌ミョルニルを叩き込まれたものだからマンティコアは、数百mは吹き飛んだ。
だけど、サクラは追撃を止めない。【雷神鎧】により雷と化したサクラにとって、どんな距離にいようと直ぐに追い付けられる。
「そぉりゃぁ」
『ゲフッ』
吹き飛び、まだ飛んでるところを地面へ叩き落とした。そこにさらなる追撃を叩き込んだ。
どんだけ、めり込んだか分からないが、かなりの深さがある穴が出来ている。
『もう怒った』
マンティコアの鬣が重力に逆らって聳え立った。瞳も可愛らしい猫の瞳から猛獣の怒りのそれに変化している。
言葉だけは威厳はないが、これから本気という事だろう。怒り狂った魔物は厄介だ。
『本気でイク』
目の前からマンティコアが消えた。いや、速度が早いだけだ。
今のサクラならマンティコアが何処にいるのか手に取るように見えている。
カス
『アレ?ハズレた?』
「遅いですね」
ドス
『ゲフッ』
「油断大敵ですが、これなら楽勝です」
頬を掠めるように紙一重でマンティコアの爪を躱し、すれ違い様にカウンターをお見舞いしてやった。
顔が陥没し、歯が何本か折れたようだ。不細工な顔が更に不細工になった。
『オデの顔が、オデの顔が。クソッ、【回復】』
陥没した元に戻るが折れた歯は、そのままだ。それにしても魔物が魔法を使うなんて中々ない。
そもそも魔法には詠唱が必要なため言語を話せない魔物は魔法が使えない。例外として魔法陣で行使するものもある。
「回復魔法を使った?魔物が使うなんて!もしかして、あの炎も魔法?」
『そうだべ。オデは賢いんだ。だから、こういう事も出来るんだべよ』
ゴニョゴニョとマンティコアが何か呟いた途端に、サクラの周囲を囲むように数十の魔法陣が出現した。
「逃さない積りですか」
これ程の魔法陣を展開出来る程の者は種族中探しても、そうそういないだろう。いても、宮廷魔法使いや勇者パーティーに入れる実力者だけだ。
だけど、数が数だけに詠唱に時間が掛かってる様子だ。今の内なら魔法陣内から抜け出せるんじゃないか?
これはゲームではないのだから、詠唱が終わるまで黙って動かずにいる必要はない。
それに魔法陣に囲まれてるけど、硬い壁がある訳ではない。宙に投影されてるだけだ。
こう身体を魔法陣へ突き出せば、通り抜けられる。
「ふはぁ、詠唱長いよ。待ちくたびれちゃった」
『なっ!』
魔法陣を通り抜け、サクラはマンティコアの目の前へ瞬時に移動し、アクビをした。




