SS1-57、帝国の三勇者〜朱雀隊、任務の説明をする〜
「それでは任務について詳しい説明をさせて頂きます」
中庭の訓練所から会議室へ移動し、朱雀隊隊長であるルージュ自ら行う事になった。
他の冒険者はおらず、後は朱雀隊メンバーのみとなっている。
「ここ最近、ブローレ商会の支店が次々と襲撃され建物自体が崩壊、更地となるという事件が立て続けに起こっているの。これを調査若しくは可能ならば犯人の確保が任務の全容となります」
「はーい、質問」
「リンカさん」
「ただ建物が経年劣化による崩壊の可能性は?」
「それはない」
もしも、建物が崩壊したたげなら瓦礫は残っている。だが、瓦礫すら無かったらしい。
これは何らかの技術か魔法を使用してるのは明らかだ。それに一晩で消失したと言うのだ。
「なるほど」
「崩壊というよりも消失したと言った方が正確ですね」
「ブローレ商会だったか?何か恨みを持った奴がやったんじゃねぇのか?」
「それが…………ブローレ商会は貴族から平民まで手広く商売しています。表立ってでは絵画やツボ等の装飾品から薬や食品に至るまで取り扱っております」
ルージュが言うには、目立たない方法により裏で悪どい商売をしてるらしい。人身売買や麻薬なんて可愛いもの、獣人や龍人族等の剥製や危険な魔物の取引を行っているという。
それは即ち、恨みを持つ者など大量にいて分からないという事だ。
「もう一つ質問」
「はい、どうぞ」
「会長は?朱雀隊が動いてるという事は国が動いてる事になる」
「ブローレ商会の会長というとブラン・ブローレですね。いくら大商会の会長の頼みでも国が動くというのはお門違いと思いますけど」
「それは、ここだけの話にして貰えると助かります」
遠回りに言って、つまり他言無用という事だ。やはり何処の王族でも悪い面もあるという事だろう。
「グフィーラ王国第三王子であらせられるジェラール殿下がブローレ商会のブランと裏で繋がってるという噂があります」
弓よりも早く魔法と同等かそれ以上の威力を放てる武器の開発を進めていたらしい。
「ルージュは、その武器は見たのか?」
「いえ、あくまで噂程度ですので。ですが、実際に会長ブランとその右手であるジョルという男も姿を消しています」
「もしかしたら、その二人は犯人に捕まってるかも?」
「えぇ、ですから可能なら見つけ次第捕獲を最優先にしたいと思います」
これは犯人の素性次第ではAランク以上の任務になるかもしれない。なにせ商人ランクほぼトップである大商会という肩書きを背負うブローレ商会を全壊に近い程に壊滅させてる時点で犯人は相当な腕を持っている。
それを殺せじゃなく捕獲は困難を極まる。殺すよりも捕獲の方が難しい。
「それで私達は、どうすれば?」
「あなた達3人には、ボクと一緒に次襲われると予想されるブローレ商会支店を警備して貰います」
「過剰防衛なのでは?戦力があり過ぎるような」
何処かの国を滅ぼせそうな戦力が一箇所に集まっている。分散した方が良さそうなものの、犯人がもしも本当にAランク以上の実力の持ち主ならこれで、ちょうど良いとルージュは考えている。
「場所ですが、ここになります」
テーブルに地図を広げルージュが指差した。古都内で、ここからさほど離れてない。
歩いて数分程度の目の鼻の先だ。朱雀隊の隊舎があるのに普通なら狙わない。捕まるのが目に見えてる。
だが、寸分違わず崩壊もとい消滅させて来ている。この支店の建物も狙われるはずだと言う。
「それで何時から出ますか?」
「明日のお昼頃からでお願いします。先日消滅させられた場所からここまで離れてますから」
コクリと頷き、今日はもうレストラン“カズト”へ帰り明日に備え一時の休憩を満喫していた。
「おはようございます」
「早いですね。準備はよろしいですか?」
「大丈夫だぜ」
「大丈夫」
「はい、いつでも」
「では、出発しましょう」
朱雀隊の隊舎から出て数分で着いてしまった。何処にでもあるような商会の建物だ。まだ何も不審な点もない。
「ここです。従業員は既に暇を貰っていません」
「退避済」
「誰もいない建物護って意味あるのか?」
「言ったではありませんか。最優先は犯人の確保と」
王城とも取引してるブローレ商会を壊滅に追い込んだ犯人を捕獲したいと国として躍起になってるという事だろう。
「うん?」
「どうした?リンカ」
「いや、何でもない」
一瞬変な気配がしたような気がしたが、気のせいだったようだ。何も無かったら、こうも楽な仕事はそうそうない。
「あれは《狂槍》メグミ」
「あそこには《戦う歌姫》ココア」
「《武神》リンカ、帝国の三勇者が揃ってるとは」
隠れてる人影は、こっそりとその場を後にし静かになる夜を待つのであった。そうして、あの戦いに発展するのである。




