SS1-56、帝国の三勇者〜朱雀隊、テスト合格〜
「炎の聖槍グングリル【紅一点】」
「負けるかぁ【弁天桜】」
炎と炎が激突し周囲の温度は急激に上昇。まるで溶岩の側を歩いているかのようだ。
攻撃特化が特徴である炎属性なのだが、二人の猛攻は目にも止まらぬ速さで、まるで風属性同士の戦いを見てるようだ。
「さぁさぁ私の後ろへとお下がりを。【涼しい歌クールビズ】」
「おぅ涼しくなったぞ」
「これをやったのは歌の勇者なのか」
「こんな事まで出来るのか?!流石は万能の勇者と言われるだけはある」
どんな熱であろうと防ぐ。火山地帯に行く時の必須的な技術だ。まぁこんな所で使うとは微塵も思わなかったが………。
「「オラオラオラオラオラ」」
「見てるだけで暑苦しいですわね」
「見てるだけで汗を掻く」
某漫画みたくお互いス○ンドを出現してる如く連打の嵐だ。朱雀隊の面々は目で追い切れてない模様。
「いつもよりメグミが笑ってるように見えます」
「気持ち悪い位に笑顔満点」
「えっ?え、笑顔ですかい?」
「隊長さんも笑顔ですわよ?」
お互いに好敵手と出会えたみたく激しい攻防戦の中で口角が上がっており、常に目を見開いている。
たまに「ヒャッハー」と狂戦士みたいな寄声を挙げてる気がするが、きっと気のせいだ。
「グングリル【火旋突き】」
「クレナイ【不死鳥の乱れ突き】」
最早、勇者と騎士隊隊長の戦いではなく、ドラゴンとドラゴン同士のような戦いとなってる。比喩だが、ここ異世界に伝わる言葉の1つに『ドラゴンの戦いには手を出すな』というものがある。
生きて帰りたいのなら、ドラゴンのいざこざには手を出さぬ事だと誰かが言った事で広まった言葉だ。
正にそれだ。あの間に入れぬ者は、ここにはいない。いるとしたら、リンカくらいだろう。
「ここ大丈夫なのか?俺ら焼け死なないよな?」
「だ、大丈夫だ」
「そんなに足を震えて説得力ねぇよ」
「勇者様が護ってくださる。安心すると良い」
「おめぇも震えてるじゃねぇか」
これがグフィーラ王国の剣となり盾となる騎士隊の一角だと思うとリンカとココアはため息しか出ない。
でも、こんなの見せられたら仕方ないという反面もある。ドラゴンに対して1人だけで立ち向かえる者がどれだけいるのだろう。普通に指の数だけで足りそうな予感はする。
「ハァハァ、やるじゃねぇか」
「ハァハァ、そっちこそ。久々に息を切らしました」
「何だ?もうダウンか?だらしねぇな」
「アナタこそ、大きく息を吸ってますが?」
あんなに激しく動いてはバテてしまうのは仕方ない。お互い短期決戦の積りだったのだろうが、リンカからしたら甘い。綿あめのように甘々。
同じ形状の武器で、しかもそこまで実力が掛け離れてる訳ではない。それは長時間にもなる。
だが、勇者であるメグミの方が有利なのに攻め切れないとなると、あの隊長は相当な腕前である。
「わっはっはは」
「ファッはハハは」
お互い笑いあった後、ガシッと握手を交わした。これ、女性同士の模擬戦ですよね?
「男同士の友情?」
「プッ、リンカ笑わせないでください」
リンカが口にした疑問にココアは我慢出来ずに口を押さえながら肩を小刻みに揺れている。
「誰が男だ」
「そうです。ボクはれっきとした女です」
二人は抗議するが…………
「えっ?隊長って女だったのか?!」
「ぷっ、おいっ止めろ。笑わせないてくれ」
「クッククック、隊長に殺されてしまう」
「おい、今笑ったやつら。素振り千回、腕立て千回、腹筋千回を5セットだ」
「「「そんなぁー」」」
「うん?なんだ?もっとやりたいのか?」
「「「いえ、滅相もございません」」」
隊長を男だと行った隊員は、片隅で訓練という名の体罰をやるハメになった。
「さてと自己紹介はまだだったね。ボクは、この朱雀隊の隊長を任命されてるルージュ・フランソワだ」
「オレは、メグミ。こっちのちっこいのが」
ドスッ
「リンカはちっこくない。ゴホン、リンカはリンカ。拳の勇者をやってる」
「私はココア。歌の勇者をやってるわ」
「ようこそ、朱雀隊へ。まさか3人も朱雀隊に入隊するとは思わなかった」
へっ?
「あのぉ、何か勘違いをなさっておられるのでは?」
「勘違い?」
「おぉっ、オレは入隊希望者じゃなくて任務の事で来たんだ」
「リンカは騎士隊に入らない」
「そ、そうなのか?!」
3人の指摘に、とんでもない勘違いをしてると気付きルージュは、赤い鎧に負けず劣らず顔面が真っ赤に染まっている。
「それで、さっきのは入隊試験だったらしいけど、任務のテストは?」
「も、もちろん合格です。危険な任務になる事が予想されるから態々テストを行う訳なのです」
自分と同等以上の強さを見せ付けられて不合格とは言えない。




