SS10-15、ジョルの仕事〜《愚者》vs帝国の三勇者その3〜
《愚者》の技術は、こちらの技術と魔法を封じるもの。それも局所的ではなく、範囲内に入ってる者に効く。
それと短距離の転移と軍人格闘技に似た格闘術を使う。リンカ以外まだ技術がまともに使えない。ただ既に常時発動済の技術は解除されてない様子。
「ここはリンカがやる。ココアとメグミはサポート」
「だが、技術は使えないぜ」
「リンカの予想。アイツから凡そ50m離れていれば大丈夫?」
「チッ」
儂のこの技術の効果範囲を見事に当てて来た。流石は《武神》といったところか。相手の間合いの測り方が上手い。
「図星?」
「何の事か解りかねます」
儂の技術:【愚者の領域】が及ぼす範囲は20m。その効果も相手の技術と魔法の無効化というもの。
ただし、既に効果範囲外で発動してた技術と魔法は無効化出来ない。それならば、効果範囲外で発動すれば良いと考える者が多い。
だが、そう問屋は卸さない。その距離という弱点をカバーするために、もう一つの技術を使用している。
それは【自由気儘な発想力】で好きな技術や魔法を創造出来る。ただし、1日3個までという制限がある。それも日を跨ぎ日付が変わると想像した技術と魔法はリセットされる。
「この障壁を利用させて貰いましょう。【付与:愚者の領域】上書きさせて貰いました。これで、ここから出ない限り距離は関係ありません」
「ココア!」
「無理です。消せません。まさか上書きされるとは思いませんでしたわ」
《愚者》も今さっき思い付いた作戦だ。《戦う歌姫》の手から離れてしまったからには、もう好きに障壁を消す事は出来ない。
これで【自由気儘な発想力】のストックは残り1つとなった訳だ。
「これで弱点はなくなりました。さて、どうしますか?」
「どうする?アナタを倒すだけだけど?」
「「リンカ!」」
「二人は、この障壁を壊す術でも探しといて」
口には出さないが、技術が使えない二人が側にいては足手纏いにしかならない。
それに二人が狙われたりしたら、自分の弱点になりかねない。
「行くよ?」
「来るが良い。こんな昂ぶる戦いはいつ振りかの」
自分の技術の一つが、こんなに早く看破されるとは初めての事だ。それに攻略もされるとは、まるでドラゴンでも戦ってる気分になってくる。
「「はぁぁぁぁ」」
お互いの拳と脚が交差し合い、まるで有名某バトル漫画を沸騰させるような近接戦闘を繰り返している。
《愚者》が【超近距離転移】を使おうにもリンカが、ピッタリと張り付いて使う暇がない。
「ぐっ………この小娘に儂が手間取るなんて、あってはならん。教祖カノン様に顔向けが出来んわ」
「むっ…………雰囲気が変わった?」
リンカでなかったら、一歩二歩後退する程に《愚者》の殺気が一段と強くなった。
だけど、こんな程度の殺気なんてリンカにとっては微風程度。
「ほわっちゃぁ」
「うっ…………蹴りが重い」
いきなり《愚者》が戦闘スタイルを変えて来た。軍人格闘から中国拳法へと変化した。
「吹き飛べ」
「ぐっ…………!」
リンカの弱点を突かれた形となった。その弱点とは体重が軽い事。これだけは、いくら訓練でもどうにも出来ない。
体質なのか?食べても食べても体重が増えない。女性としては嬉しいはずの体質だが、それは筋肉も増加し難い事を物語っている。
武道家としては致命的な欠点だが、その代わりに武道の技術を鍛え上げ、小柄な体を活かした速度に全体重を乗せるという離れ業をやってのけている。
一見、全体重を乗せる事は簡単そうに見えるが難しい。停止しながら時間を掛けて行えば出来る人もいるが、それをリンカは動きながら速度に乗せてやるのである。
その名も【重弾】とリンカは名付けた。拳銃の弾は、軽いのに速いから破壊力がある。
では、人間程の重さを速度を変えずに発射したらどれだけ破壊力が増大するのか?
「肋骨でも折れましたかな」
「これが命取り。土の聖拳ガイア【加重岩拳】に【重弾】を加える」
《愚者》からの蹴りによる速度を殺さずに上乗せしたまま速度が遅くなる土属性の技術に合わせて放った。




