SS10-13、ジョルの仕事〜《愚者》vs帝国の三勇者〜
ルージュも驚きはしなかった。ジョルを助けに来た時点で、そっち側の人間だと誰でも分かる事実。
だが、本音を言えばルージュにとって聞きたくない答えであった。ルグラン隊長に憧れ朱雀隊に入った。ルグラン隊長に追い付くために鍛錬にも勤しみ、ここまで登り詰めた。
なのに、裏切られた。
「ルグラン隊長、あなたには騎士の誇りはないのですか?」
「その誇りで飯は食えるのかね?その誇りで人々を救えると言うのかね?なら、何故儂の家族を救えなかった。儂の家族は、この国にこの世界に殺されたのだ」
「…………!!」
ずっと独り身だと思っていた。だが、ルグラン隊長…………いや、《愚者》にも愛する妻と娘がいた。
だが、ルージュが朱雀隊に入る前、この国が魔族領を滅ぼすために遠征した事がある。それが、およそ11年前。
まだ、カズトらの世代の勇者達が召喚される前の話。もちろん、その中には朱雀隊も入っており、隊長はルグラン、副隊長はルグランの奥さんであった。その部下には娘もいた。
魔族領の魔族達に勝てる見込みは当然あった。あったが、8割程が魔族に殺られた。つまり、敗北したのである。
その8割の中にはルグランの奥さんと娘も含まれる。絶望の淵にいたルグランは、そのままグフィーラ王国へと戻り後世の育成に励んむ事、5年。ルージュが副隊長になってから一年後。
ルグランは姿を消した。それが、ちょうど6年前。カズトら勇者達が召喚された時期と重なる。
そして、魔神教会の勢力が拡大し始めたのも6年前とされている。
「なら、何故直ぐに騎士隊を辞めなかった。憎き国の騎士を育てる真似を」
「だって、その方が壊し甲斐あるではありませんか?自分で育てたものを壊す。これ程に快感を覚える事は他にありません」
「狂ってる」
「えぇ、自分でも分かっております。でも、儂がこうなったのは、この国この世界のせいなのですよ。だから、教祖カノン様に出会えた事は正に神のお導きの賜物で御座います」
何時でも捉えられるよう話しながら配置に着く。出口は、あの一箇所のみ。相手が一人増えた位で、こっちが負ける要素はない。
むしろ、こっちは四人であっちは二人。《愚者》が、どんな技術を持っているのか不明だが、それを考慮しても余りある。
「ふむ、良い配置です。どんな事態になろうとも動ける位置取りをしている。連携の基本ですね。ですが、それは相手がよっぽど格上だと意味をなさない」
そう《愚者》はつぶやくと、一旦目を瞑る。数秒後、カッと大きく見開くとここら辺一帯が、ドス黒い殺気に包まれる。
「ぐっ、あぅ」
ガタガタ
ルージュの手が震えて止まらない。怖い、本能から逃げたいと数歩後退りしてしまう。
これが朱雀隊前隊長の実力。こんなの勝てる訳ないと、ルージュの心がポキリ折れそうになろうとしていた。
「こんな殺気、心地良い子守唄だぜ」
「うん、まるでそよ風」
「た、対した事ありませんわ」
「ほぉ、まかりにも勇者という事ですな。殺気を殺気で跳ね返すとは」
3人の殺気が壁となり、これ以上殺気はルージュには届かなかった。そのお陰か震えが止まり立つ事が出来ている。
「ルージュ、いける?」
「先程は失礼しました。いけます」
「ココア」
「ダメですわね。この人には魅了が効きません」
「チッ、効いてくれれば楽勝だったんだがな。まぁいい。戦う楽しみが増えたってもんだ」
「儂に勝つお積もりで?本気で来ないと死にますよ?」
ジリっジリっとお互いの間合いと隙を伺う。一見、無防備に見えて隙が中々見当たらない。これは一瞬で決着がつく。
「遅いですよ。お姫様」
「なっ!【音速移動】」
「させません。ここは、もう儂の領域です」
「「ココア!」」
「おっと動かない事です。下手に動くと首がへし折ってしまいます」
ココアの背後から《愚者》の腕がココアの首を圧迫している。まるで騎士の戦い方ではなく軍人格闘技を見てるかのうよな戦い方だ。
「隊長もう止めてください」
「儂は、もう隊長ではない」
今だ!
「メグミ!」
「おうよ、リンカ」
一瞬だが、《愚者》に隙が生じた。ココアを助けるなら今しかない。
「「うぉぉぉぉ」」
《愚者》の死角から襲い掛かる。
「甘いわ。【帳短距離転移】」
ココアのブローとメグミの突きを放ったところには《愚者》の姿はなく、二人からほんの十数m西側にいた。




