SS10-12、ジョルの仕事〜帝国の三勇者&《紅》vs《運命の輪》その5〜
そして、月日は流れ成人になるとカノンは会社を立ち上げ、いくつもの事業に手を出した。その中には誰もが知ってる有名な食品会社やIT企業等が含まれている。
ここまでならやり手の女社長で、子供の頃からのインパクト抜群な肩書で伸し上がって来たと誰でも思うだろうが、表があるなら裏もある。
今までの話は表の話。裏の話は反吐が出るような話だ。カノンには、自分が楽しむためなら何でもやるという裏の顔があった。
カノンの楽しく思える事。それは、形ある物ない物に限らずに破壊する事。それも自分の手を汚さずに。
「あのクズ姉のせいで家族は崩壊。だから、お仕置きが必要。ココア、カノン姉の居場所を聞き出して」
カノンのせいで皇家は崩壊。カズトとリンカの両親を離婚に追い込んだのはカノン。
父親には、カノンが手配した女性と不倫させ、母親にはギャンブル漬けにするよう洗脳させ借金を背負わせた。もちろん自分が導いたと証拠は抹消して。
他にも似たような事を何回もやり、自分の会社に邪魔になりそうな企業を倒産に追い込み、間接的にテロにも加担した事もあり、とある国の都市にある主要施設を破壊した。
ただし、それらにカノンの名前が挙がった事はない。カノンは、相手の心を操るのが異様に上手く心の隙間に入り込んでくる。
「うん、分かったわ」
リンカの気迫に負けて返事してしまったのもあるが、メグミも含めココアもカノンの危険性は地球にいた頃より十二分に理解している。
二人ともギリの距離感で被害に合わなかっただけだ。だが、カノンの被害者であるライバルというべき者の末路を側で見てしまった1人である。
この時もカノンが裏で糸を引いていたという証拠は出て来ないまま有耶無耶になってしまった。
「ねぇ教祖カノン様って何処にいるのかご存知?」
「それは」
「そこまでにして貰おうか」
突然、あらぬ方向から男の声が聞こえて来た。3人が声をする方向へ振り向くと、そこには老紳士風な男が立っていた。
ここはココアが張った障壁の中、入れるとすればココアの真後ろにある穴だけ。
転移魔法という魔法があるが、それは使用者が限られる高等技術。現実的ではない。
「アナタ誰?」
「いつの間に!」
「気配すらしなかったぜ」
不気味な程に声を掛けられるまで気づかなかった。だが、勇者の本能が、そいつは敵だと警告を出している。
すかさず臨戦態勢を取る3人。そんな様子に老紳士は無視してジョルの元へと歩み寄る。
「勇者3人なら仕方ないかもしれませんが、もう少ししっかりしなさい」
ジョルの肩をポンっと叩くと、まるで魅了が解けたようにすんなりと立ち上がった。
「こ、ここここれは《愚者》様!も、ももも申し訳ありません」
「さぁここの任務は完了したのです。さっさと行きますよ」
「ちょいっと待ちやがれ」
「はい?何ですか?」
こういう時に限って何にでも言い合えるメグミは役に立つ。ここで逃したら次に出会える可能性は低い。
「そいつを置いて貰おうか」
「何故です?仲間を助けるのは当たり前ではないですか?」
「そいつはテロ行為を行ってるんだよ。大人しく引き渡すならお前の命だけは助けてやる」
「それは面白い。儂の命を狩れるなら狩ってみなさい」
メグミの殺気を物ともせず、涼しい顔で老紳士の男はジョルの前に出た。
「ゲホッ、ボクは生きてるのか。えっ?!貴方様は!」
「おや?ルージュくんもいらしてるのですか」
「何でここに居るのですか?!ルグラン隊長」
「「「?!」」」
隊長が隊長と呼ぶ時は、それは別の騎士隊隊長か同じ騎士隊の前隊長を呼ぶ時だけだ。
この場合は、後者だろう。
「どういう事?」
「凡そ6年前に忽然と姿を消してしまった。もう死んでいたと思われていたのに」
「フッフフフフ、儂はな。この国に、この世界に嫌気が差していたところに教祖カノン様と出逢ったのだ。カノン様は素晴らしいお方だ。いずれ世界を浄化してくださるという」
「なっ!」
ルージュは驚いてるが、リンカ・ココア・メグミの3人はカノンならやりかねないと、そこまで驚きはしなかった。
「それで、どうやって世界の浄化やらを行うんだい?」
「それを話す訳ないでしょう。その代わりに自己紹介を致します」
「ルグランじゃないのか?」
「それはもう捨てた名だ。儂は魔神教会No0《愚者》。それ以外でも以下でもない」




