SS10-8、ジョルの仕事〜帝国の三勇者&《紅》vs《運命の輪》その2〜
「そう、ボクもブラン殿はクズ野郎と思ってます」
「それじゃぁ」
「ですが、王命のため、アナタを捕まえます」
王命:王族から発せられる絶対命令権。これには、如何様にも逆らえない。王族のみが扱える1種の支配系統の魔法。
これに逆らえるとすれば、勇者か同じ王族のどちらかだ。王族直属の騎士団では、先ず逆らうのは無理ゲーである。
「動かない事が賢明ですよ。この距離なら先ず外さない」
ほぼゼロ距離だからね。これでワタクシの首を取れないとなると、とんだ素人丸出しだ。
ルージュの言う通り普通ならここで観念するのが賢明だろう。だが、こんな場面でも覆るであろう技術を持っている。
【確率変動】発動。絶対回避。
ポロッ
「えっ?!」
ジョルは、ナイフを一本足元に落とした。それを目で追い掛けたルージュに一瞬の隙が生じる。
それを見逃す程、お人好しではないジョル。暗殺・諜報を生業にするアゲハ隊は、その身軽さを活かし相手の力を利用して最大限以上の力を発揮する柔術を得意としている。
その隊長でもあるジョルももちろん例外ではない。
「そこぉ」
ルージュの手首を軽く可動域外に撚るだけで、炎槍クレナイを落とした。これで、今直ぐにジョルの首が飛ぶ事はなくなった。
「えっ?!」
無意識に炎槍クレナイを拾うとしたルージュだが、そうはならなかった。
「敵に眼を反らして余裕ですね」
グルン
「グハッ」
ルージュの体が空中で一回転し地面へと叩き落とされた。鎧の重さも相まって衝撃が加わり直ぐに立ち上がれそうになかった。
「リンカ、あれはまさか」
「うん、背負投げ。ルージュが槍を拾う力を上手く利用して投げた」
「派手さはありませんが、強いですね」
「うん、強い」
これで少しは大人しくなりましたかな?
「改めまして自己紹介といきましょう」
スルッと自分の手袋を脱ぎ捨てるジョル。
「ワタクシは、魔神教会No10《運命の輪》のジョルでございます。以後、お見知り置きを」
ジョルの甲には、魔神教会のマークとギリシャ数字の10という文字が浮かんでいた。
「ゲホッ、あのジョル殿が魔神教会だと?!何時から魔神教会に」
「何時からと申されましても、それはブローレ商会より前と言うしかありませんな」
どうにか立ち上がるルージュ。まだ痛むが、ここで休んでいる暇はない。休んでいたら、部下に顔向け出来やしない。
「ルージュさん、ここら辺一帯障壁を張りましたわ。もう逃げられません」
「ココア殿、ありがとうございます」
話し過ぎたようですな。上空を見ると、僅かに月明かりが反射してる様子が見て取れる。
あの短時間で、良くここまでの障壁を張れるものだと関心してる。やはり、勇者という輩は別格という事ですか。
「今度こそ、ジョル殿貴様を捕まえる」
「殺す積りで掛かって来た方が良いですよ。間違って、アナタを殺しかねないですから」
【確率変動】発動。クリティカル率、相手の技術・魔法不発率上昇。
「うむ、こんなものですか」
ブランとブローレ商会から吸い取った運気を使用したが、ほんの1万の1%程しか使ってない。
強敵の戦闘や困難な状況な程に比例して運気を大量に使うものだが、ルージュに対してこんなものかと逆に落胆してしまった。
「何をぶつくさと言って…………るんだ!」
ルージュが驚く顔を見せたという事は、技術が不発に終わったらしい。
ワタクシの【確率変動】は相手に悟り難い。だから、暗殺・諜報を生業にする我々には重宝している。
「確か、この槍は炎を出すのでしたよね?なら、何で出さないのですか?」
「う、うるせい」
まぁワタクシが不発にしてるのですけどね。
いつも出来る事が出来なくなっている。これ程、不快で悔しい想いは中々ない。だが、タダの槍でも突き刺せば致命傷を負うのは間違いない。
だが、誰もが動揺する。それが動きを鈍らせ最大の隙を生じる事になる。そのため、ジョルが直ぐ眼の前に来てる事を一瞬でも見逃した。
「ガラ空きです」
「なっ!」
ルージュの赤い鎧が覆われてない箇所。お腹を体重を乗せて強打した。どんな攻撃もクリティカルになり、メキメキと嫌な音が鳴り響く。




