SS10-7、ジョルの仕事〜帝国の三勇者&《紅》vs《運命の輪》〜
さてどうするか?まさか、勇者3人が警備に就いてるとは思いもしなかった。下見して正解だった。
「隊長」
「そう慌てんな。別にあんな化け物相手を倒す必要はない。支店の建物に蓄積してる運気を回収するだけで良い。目的を見間違うな」
運気を回収の影響で建物は崩壊してしまうため、目的を完了した途端にバレる。そこは則撤退するのみ。
まぁあの勇者3人相手に上手く逃げ切れるかは別の話だが、ワタクシの技術があれば逃げ切れるでしょう。
最も逃げ切れる確率の高いルートを【確率変動】で導いてやれば良い。
「近くの宿屋で夜中まで待機とします」
我々はアゲハ隊。暗闇に紛れてこそ、本領発揮出来る。だから、日が沈み建物から灯りが消え失せ人通りが全く無くなる頃を見計らって行動開始した。
(ここまでは誰にも会ってないが…………)
だが、街の中としては静か過ぎる。いくら足音を消しても逆に目立っているような気がしてならない。
(もしかして、罠か?)
風の音すらない。いや、布の擦れる音や心音すら聞こえない。これは異常だ。いくら静かにしても心音や呼吸する音までは消せない。
それに声が出せない。
シュッ
ジョルの目の端に暗闇に映る金属のような光を見て取った。背中を仰け反り、槍を躱して後退する。
「チッ、ココア殿避けられました」
「仕方ないわ。相手も手練れのようですし」
音が戻ってる。あっと声を出す。どうやら声を出せるようになっている。もう少しで首と胴体がサヨナラするところだった。
「いきなり危ないではないですか」
敢えて、タダ通り過ぎようとしてたように装う。帝国の三勇者だけではなく、王族直属の騎士団の一つ朱雀隊の隊長:ルージュ・ロードまでいる。
これはツイてない。
「ワタクシらは、タダ通りすがりの者ですが」
「この夜更けに?」
ギクッ
「そんなローブを羽織って?」
ギクッギクッ
「フードを取ってくれないかしら?」
「これで……………良いです……………か」
フードを取る瞬間にジョルはルージュに向かって隠し持っていたナイフを無動作で投げた。
「ルージュ!」
「ボクは大丈夫です。それにしても、アナタだったとは。これはどういう積りなのかしら?ジョル殿」
「ルージュ、アイツを知ってるの?」
チッ、ナイフ投げで仕留めるとは思っていなかったが、見られたくない奴に顔を見られた。
朱雀隊隊長ルージュとは顔見知りだ。王城にブローレ商会として出入りしてる時に何度か話してる。
「えぇ、リンカ殿。名前はジョル殿、ブローレ商会会長ブラン殿の右腕の男なのよ」
「これはこれは《紅》ルージュさんではないですか。この夜更けに、どうしたのですか?」
「白々しい。ジョルさん、アナタが今までブローレ商会本店と支店を潰して来たのね?」
怒ってる怒ってる。朱雀が炎の鳥のように、ルージュも炎属性が得意で熱くなりやすい。
それでもって、騎士団隊長の中では最も攻撃力がトップだ。ルージュの持つ炎槍クレナイに因んで二つ名も《紅》と付いてる。あの槍に突かれた瞬間、消し炭になるという。
「ワタクシが、そんな事やる意味があると思っておるのか?証拠を出せ。証拠を」
「会長ブラン殿と一緒にアナタの消息も消えていました。今ここに現れた事が証拠になりませんか?」
これは逃げられないな。
「クックククク、これはもう隠す意味はありませんね」
「では、アナタがやった事なのですね。何が目的ですか?洗い浚い話して貰います」
炎槍クレナイの刃先を、ワタクシの喉元に触れる寸前まで突き出している。さてと、何処まで話すか?
「目的も何も、ブローレ商会を潰す事じたいが目的です」
「ブラン殿を恨んでいたの?」
「いいえ、あそこはあそこで良い働き口でした。ただ、ブランはクズ野郎でしたがね」
給金だけは良かった。王城を除いて、あそこ程に給料を貰える働き口は中々ない。
しかし、元々ブランじゃなく魔神教会の人間だったという事。教祖様程に優れた方はいない。
「それでブラン殿はどうしたの?」
「豚野郎は、死にまし…………いえ、消滅しました。もう、いませんよ」
「アナタが殺ったの?」
「えぇ、間違いありません。あの方の命令でワタクシの贄になって頂きました。あの豚野郎でも最後は役に立ちましたよ」
ブランから運気を吸い取ってる間、力が湧き上がってくる良い気分になるのを感じていた。あの素晴らしい感覚は、一生忘れない。




