33食目、レイラの姉の試練
実は王様には秘密がある。カズトを勇者として信頼してる訳ではなく、本当は…………カズトが作る料理のファンなのだ。そのため、本来ならば王城に引き留め王専用護衛兼料理人として雇うつもりであった。
ただ、カズトに嫌悪されるのを抑えるためカズトの要求を飲んだのだ。そんな風に思ってるカズトを貶されれば、憤怒するのは当たり前だ。
本当ならばカズトがレストランをオープンした時、真っ先に行きたいと思ったようだが、王城の幹部達に政を優先する様にと頑なに言われ半年程時間が掛かってしまった訳である。
「ひぃっ!す、すみません。父上」
久し振りに見る王様の威厳にアテナの瞳に涙が浮かんでガクガクブルブルと震えてしまっている。
カズトにとっては、初めて見る王様の怒りに「この王様に威厳なんて物があったのか」と心の内で思ってるが、消して口には出さない。
「儂もすまない。さぁ、冷めない内に食べようか」
ガチャガチャ
と、ナイフでステーキを切ろうとするが、ナイフを入れた感覚がまるでなくステーキが切れたのだ。
「なんという柔らかさなのだ。それに加え………外はカリッと中は柔らかくジューシーなのだ。口に入れた瞬間にとろけてしまう!」
「えぇ、最初は血のソースと聞いて想像した味とまるで違うわ。それに、いくらワイヴァーンといっても、ここまで柔らかく仕上げるなんて………どんな魔法をお使いになられたの」
カズトはアテナの食レポを聞き心中でガッツポーズを決めた。これはもう美味しいと言ってるのと同義だろう。カズトの料理が美味しいのは大きく二つの理由がある。
一つ目は、カズトが元々持っている料理人としての技術が大きい。二つ目は、カズトが使ってる包丁はエクスカリバーが形態変化した料理の聖剣:エクスのスキルが作用してる。
この二つが合わさって大きい効力になり、美味な料理を生み出してる。
「いえ、魔法は使用しておりません。全ては私が持つ技術だけでございます」
ウソは言ってない。スキルと魔法は似て非なるものだ。
スキルは、その人の成長にのみ発現し、その人固有の業と言って良いだろう。それに魔力は必要しないのも大きい違いだ。
魔法は、スクロールを読む又は研究で術式を開発する事で習得出来る。その他、既に習得してる魔法を繰り返し使用する事で、その魔法の上位互換又は派生した魔法が習得する事がある。魔法を使用する際は魔力を使用する。
「ほぅ、大したものだわ………はっ!褒めた訳じゃないわ。だけど、美味しいのは確かね………あぁぁぁ、もぅ認めれば、良いんでしょ。レイラの仲を認めます。これで良いんでしょ」
この人はシスコンに加え、ツンデレなのか。笑いそうになったが、どうにか我慢する。
これでレイラと離ればなれにならなくて済んだという事だと思ったところに後ろで見てたレイラが背中側から抱き着いて来た。
「カズトぉぉぉぉぉぉ、私のためにありがとうぉぉぉぉぉぉ」
「うぉっ!ちょっ、みんなが見てるって」
背中に胸が当たって感触が伝わって来る。レイラが抱き着いてる様子に姉のアテナがギリリと歯軋りをたてて、カズトを睨み付けてる。
折角、納得仕掛けたのに逆戻りにならねぇか心配だ。レイラが抱き着いてるせいで、アテナからドス黒いオーラが噴き出てるのは気のせいか?いや、気のせいじゃない。折角の美人な顔が台無しなる程のスゴい形相になってる。
「ええぇぇぇ、やだぁぁぁぁ。見せ付けるの♪」
「うふふふふっ、あらあらまぁまぁレイラったら大胆ねぇ。カズト様………いえ、カズトさん、これからもレイラの事宜しくお願いさますわね」
「はい、お義母様お任せ下さい。絶対レイラを幸せに致します」
つい、返事してしまったが、これ結構恥ずかしい台詞を口にしたんじゃないか!俺の台詞にアテナが過剰反応し、俺に詰め寄ろとするが、俺の前へレイラが飛び出した。
「姉様、カズトは私の大事なお人です。カズトを傷付けるなら、いくら姉様だからといって許しません」
「何を言ってるのよ。おっほほほほ、そんな訳ないでしょう。か、カズト様を傷付ける訳ないじゃない。レイラの事お願いしようと近寄っただけですわよ。
今までの事は、レイラを任せられる男かどうか試しただけですわ。そうですわよねぇ、父上?」
突然振られ王様は、水を吹き出し噎せてしまう。王妃様が背中を擦り、どうにか咳は収まる。
王様がチラッとアテナを見るやいなや多少冷や汗を掻くが、ゴホンと咳払いをし肯定する。
「あぁそうだとも。アテナの言う通りだ。全ては勇者殿を試す為の演技だったのだ。
大切な娘を任せられるかどうか試験をしたまでなのだよ。うわははははは………はぁ~」
うわぁ~、これは絶対アテナに言わせられてるよ。娘にも尻敷かれる王様って何か幻滅するなぁ。でも、散々世話になってるのも確かで、尊敬する一人であるのも間違いなく………どう、反応したら良いのか分からん。