SS6-20、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜無息領域〜
バシュバシュ
ライラはグローブを装着し、ボクシングボールにパンチする。一見シンプルだが、跳ね返るボールを止めずにパンチを続けるのは意外に難しい。
これはリズムを狂わずにボールの動きを見極める動体視力も鍛える効果もあるようだ。
「はーったーっ、また途切れた」
「うふふふっ、難しいじゃろ?」
油断してたというのもある。こんなボール如きに遅れを取るとは思いもしなかった。
やらないと、この難しさは分からない。理解出来ない。大振りではダメだ。ジャブで事細かく、1秒で十、百と増やすように打つ。打つべし、打つべし。
「ライラ凄いのじゃ。ライラの手元が何本にも見える?!」
「はーっ、とぉりゃぁ!」
自分でも知らない内に息を止めていたようだ。だが、何か掴めたような気がする。
息を止めてる間、周囲の時間がゆっくりと動く感覚がした。それが本当なら…………とんでもない技術を手に入れた事になる。
「ハァハァ」
だけど、息を止めるという発動条件のため使用後、隙が生じやすいのが弱点がある。この技術を使い熟すには、もっと鍛錬が必要だ。
「その顔は、何かあったのか?」
「えぇ、新しい技術を覚えたようです」
「なにーっ?!それは、どんな技術なのかや?」
「それは秘密。いくらアリスでも手の内を明かす訳にはいかない」
今はまだ使い熟せないが、いずれは切り札になり得る技術だ。密かにステータスを見ると、新たに技術の欄に加わってる。
【無息領域】レベル1…………息を止めてる間、周囲の時間は遅くなる中で自分は自由に動ける。
やはり、予想した通りの技術だ。ただ気になるのはレベルと効果説明の下に何も記されてない空白がある。
たまにレベル付の技術が出現する。レベルが上昇するにつれ、新たな能力が追加される仕組みだ。
つまりは、まだまだ強くなれるという事を意味する。
「うむ。妾も失礼した。簡単に技術なんて明かす相手がいたら信用ならんしな」
「見せようと思っても簡単には見せられない代物だしね」
【無息領域】を披露しても感知出来る者なんて、どのくらい存在してるか?勇者でも難しいに違いない。
まぁそれは使い熟す事が出来ればの話だ。まだ習得して間もなく、【無息領域】を使うのに体が着いて行ってない。
「ハァハァ、ちょっと休憩」
ステータスを確認後、ドバっと額から、腕から、体至るところから汗が吹き出てる。真夏に十数km走ったような滝みたいな汗が止まらない。
「ライラ?!どうしたのじゃ!その尋常のない汗の量は?!ほれ、飲むのじゃ」
ゴクゴク
ライラから受け取って飲んでるスポーツドリンクが一番旨く感じる。ものの数秒で空になった。
飲み終わった頃には、汗は引いており足元には水溜りが出来ていた。別にお漏らしした訳ではないよ?
「ライラ様、大丈夫ですか?塩飴も嘗めた方が良いです」
「ありがとう」
王城にいた時には、こんな異常な量の汗は流した事はない。もしや【無息領域】の副作用なのか?それしか考えられない。
「大丈夫なのかや?」
「大丈………夫」
ピキッ
「ふぎゃ?!」
い、痛っ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。体中が痛い。アリスに触られた箇所から電流が流れたように体全身に痛みが走る。
「これはカズト殿を呼んできます。姫様はライラ様を見ていてください」
「わ、分かったのじゃ」
シャルが急いでカズトを呼びに行く。【鑑定】を持つカズトなら何か原因が分かると思った次第。
「うん、これは」
「何か重大な病気なのかえ?」
どう伝えれば良いのか?まぁ正直に話そう。
「あぁ何て言うか」
「正直に申すが良い」
「ただの筋肉痛だ」
「筋肉痛?筋肉痛というと運動し過ぎるとなる筋肉痛ですか?」
他にどんな筋肉痛があったら聞いてみたい。
「ただし、相当重症のようですね。これでは、まともに動けるようになるには、数日は要する」
それでも良くショック死はしなかったと関心する。冒険者や騎士ではない一般人なら筋肉がズタズタになってるレベルだ。
「でも、直ぐに動けるようにする事は可能です」
「どうするのじゃ?」
「これを貼るのです」
カズトが懐から取り出したのは一見普通の湿布だ。だけど、この湿布はカズトが【異世界通販】で取り寄せた地球産の湿布である。
故に、何やら技術や魔法みたいな効果が付与されてる魔道具と化してる訳である。




