SS6-19、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜チェストプレスマシン〜
朝食を食べた後は、もちろんトレーニングルームへ直行だ。ライラにとってトレーニングルームは、遊園地やテーマーパークと同義。
騎士たるもの、鍛えてなんぼの世界。鍛えるだけ自分に返ってくる。冒険者や騎士は、まだまだ男世界なだけはあって、女性は認められ難い。
赤薔薇隊長という立場でも貴族らには舐められる。それだけなら、まだマシだ。たまに変な目で見て来る輩がいて、その視線が気色悪くて敵わない。
だから、鍛えて鍛えまくるのだ。そうすれば、いずれは認められるはずだ。
「今日は、これが良いな」
今日選んだトレーニングマシーンは、背後に重しがあり胸辺りにあるレバーを前方へ押し出すと重しが浮き上がる仕組みのようだ。
「ここに座って両腕で動かすのか」
「それはチェストプレスマシンと言うらしいです。背後の重しを追加すれば、負荷を変えられます」
それは嬉しい事を聞いた。今の重さで満足出来なくなったら、重しを足せばいくらでも体に負荷を加えられる。
「シャル教えてくれてありがとう。早速やってみる」
ここに座って、レバーを前方へと押し出す。これは意外に効く。剣を振る事と違う筋肉の使い方に早くも筋肉がプルプルと悲鳴をあげてる。
「ハァハァ」
だけど、まだ止めない。こんなに早く止めては隊長なんてやれやしない。苦しいだからこそ、それを乗り切った先に成長出来るし強くなれる。
「ふんぬ、ふんっはぁっうんぬ」
腕だけではない、胸の筋肉にも効いてくる。今まで腕の力だけで剣を振っていた事が良く理解出来る。
腕だけではなく、胸の筋肉を意識的に使う事でいくらか楽になった。これで後、1時間は続けられる。
「そう無理せぬ事じゃ」
「ふぅっふんぬっ、まだ行けます」
「昨日も言ったであろう?水分補給は大切じゃと」
アリスの命令なら従う他に選択肢はない。だから、一旦中断し休憩を取る事にした。
「ほれ、塩飴とスポーツドリンクじゃ」
「あ、ありがとうございます」
塩飴?塩の飴という事だろうか?アリスから白い塊を渡された。クンクン、匂いは特にしない。
まぁアリスが渡してくれたものだ。毒はないだろう。カリッと口の中に放り投げた。
塩と名前に付いてるからには、しょっぱいと思いきや、そこまで塩辛くなく不思議な味だが不味くはない。
「これはポーションの類なのか?」
「いや?汗を流した後には塩が良いとカズトが言っておったぞ。このスポーツドリンクにも似たような成分が入っておるそうな」
それは始めて聞いた。勇者は、自分らにない知識を持ってるが、その中にある知識の一つであろうか?
「カズトに言えば、売ってくれるのじゃ。子供でも買える値段設定じゃな」
「えっ?なら、お金払います」
アリスが前方へ右手を出し受け取れないと首を横に振る。
「言ったじゃろ?子供でも買えると。それに友達のためにあげたのじゃ。妾はライラの友達じゃないのかえ?」
それを言うのはズルい。お金を出そうとした手を引っ込ませるしかないではないか。
まぁでもアリスが友達と言ってくれて嬉しくもある。王城にいたままでは味わえない経験だ。
「もちろんアリスは友達です」
「そうかえ。良かったのじゃ」
私も気軽に話せる友達はいなかった。赤薔薇隊内でも上司や部下の関係だけで友達もは程遠い。
「アリスは何をやってたのですか?」
「妾はアレじゃ」
アリスが指差した先にあったのは空中に固定されてるボールみたいな物体。アレをどうやるのか検討もつかない。
あのボールみたいなのを殴るのだろうか?それだと鍛えられないような気がする。
「あれはのぉ。ボクシングボールと言って肩の筋肉や瞬発力を鍛えるのじゃ」
「瞬発力?」
それもアリかもしれない。いくら重い攻撃を喰らわしても手数に圧倒され負ける可能性もある。
そして、剣を扱う騎士として肩の筋肉を鍛えるのは定石に適ってる。肩がダメだと剣は触れない。
「休憩終わったら、ライラもやってみるかや?」
「そうですね。えぇ、やってみましょう」
何事にも挑戦だ。始めてやる事ばかりで、ウズウズしてる。まだ強くなれると確信に似た何かを感じる。
「これを着けてやるのじゃよ」
「なるほど」
手を傷めないための防具か。東方に伝わる武道家が似たような防具を着けていたような気がする。
「そういえば、シャルは?」
「向こうにおる」
斜めに置かれた台に仰向けになり、腹筋をしている。あんな角度で、ライラはやった事はない。あれもいずれやろう。




