SS6-17、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜玉子掛けご飯〜
「うっぷ」
本当にヤバい。色々と逆流して来る物体が、もう自分の意志では止められないところまで来ている。
キョロキョロと辺りを見渡す。ふと、部屋の片隅に桶を発見した。もう迷わずに全裸のまま、桶にリバースした。
「ハァハァ、く、【清掃】」
リバースした出来事を生活魔法の一つである【清掃】で無かった事にした。
「アリス見た?」
ブンブン
「み、見てないのじゃ」
ニッコリとライラは笑顔だが、背後に何かが見える。いや、正確には錯覚だが、ライラの背後に鬼が見え隠れしてる。
「そぉ、誰かに言ったら」
「だから、見ていないのじゃぁぁぁ」
冗談はさておき、ライラとアリスは着替える。その一方、シャルはまだ寝ていた。
「シャルよ、良くあの状況で寝れるのぉ」
「何かありました?」
「いや、何でもない」
シャルが起きたのは、ライラとアリスが着換え終わってから十数分後であった。
三人が起きた事により食堂へ向かった。既に朝食の準備は済まされており、三人が席に着いたと同時に運ばれてきた。
「本日のご朝食は、サンマの塩焼きと玉子掛けご飯定食で御座います」
塩を軽く振って焼き上げたサンマと、白い小鉢の中に黒い小鉢が入っており、その中に割ってない生玉子が入ってる。
色白に炊きあがってるご飯は、一粒一粒聳え立つのように湯気が立ち籠もり良い匂いが鼻に付く。
汁物は、油揚げと豆腐の味噌汁。小鉢にたくあんが数枚供えてる。
「ねぇ、これは玉子よね?」
「玉子じゃな」
「玉子ですね」
コンコンパカっ
アリスは躊躇なく白い小鉢に生卵を割り落とした。箸で掻き混ぜ白いご飯の上へ廻し掛け、醤油を疎らに掛け回し混ぜたら、そのまま口の中にインさせた。
「なっ?!アリス大丈夫なの!」
「大丈夫なのじゃ。ココの玉子はな、新鮮で衛生管理とやらがちゃんと行き届いてるから生で食べても大丈夫なのじゃそうじゃ」
「カズト殿が、仰言ったそのままではないですか?」
「うるさいのじゃ」
いくらアリスが大丈夫だと言っても抵抗はある。玉子とは焼くか茹でるかしないと、生で食せばほぼ100%腹を下す代物。下手したら死ぬ可能性すらある。
それを他国の王族であるアリスが食すなんて、本来あってはいけない事だ。だが、あんなに美味しそうに食べる姿を見ては食べずにはいられない。
パカッ
「うっ…………」
やはり気持ち悪い。生理的に嫌悪感を、どうしても覚えてしまう。玉子自体は食べれる。食べれるのだが、それは火を通してあるからの話であって生では躊躇してしまう。
「ライラよ、どうしたのじゃ?早く食べないと冷めてしまうじゃろうが」
「あ、アリス」
「姫様、玉子掛けご飯を始めて見る方に、それはいくらか残酷でありましょう。我々は、既にレストラン“カズト”に居候して、どのくらい経ちますか?」
「そ、それは!」
「ライラ様は我々と違うのです。こういうのは少しずつ馴らして行く必要があります。ライラ様、別の物をご用意させます。お金は我々持ちで」
アリスが哀しい顔をしている。友達と同じ物を食べ、同じ事をし、同じ屋根の下で寝る事が密かな夢。それを否定されたようで、どんよりな気持ちになっている。
「いいえ、ご気遣いありがとうございます。私なら大丈夫です」
アリスが食べたのだ。私が食べない訳にはいかない。美味しくない物をアリスが食べる訳はない。
意を決して先程アリスの食べ方を見てたから、その真似で醤油を廻し掛け混ぜ合わせる。
「はぐっ…………んっ!う、旨い。この濃厚でコクがあるところに醤油の酸味が加わり、何とも言えぬハーモニーを奏でてくれる。何で私は今まで食べなかったのか悔いてる」
ヤバい、シンプルだが、それでいて美味しい。シンプルだからこそ、王城でも食べられるのではないかと頭を過る。
「ここでしか食べれから、その気持ち良く分かるぞ」
「えっ?ここでしか食べれない?」
タダ玉子をご飯の上に乗せて混ぜ合わせるだけではないか?それなのにレストラン“カズト”しか食べれないなんて、意味が分からない。
「忘れておるのではないか?本来、玉子とは火を通さないと食べてはいけぬ代物だと言う事に」
「あっ?!」
そうだ、忘れていた。ここにいると今までの食事に関する常識が崩れる気がした。




