SS11-9、ルーシーのグルメレポート〜3種のサンドイッチとオレンジジュースその3〜
オレンジジュースを堪能した後は。
「最後の…………メインじゃな」
食パンに挟まれたローストビーフが隙間から顔を覗かせてている。その断面は綺麗なピンク色で、生ハムとはまた違った美しさを持っている。
その美しさにテーブルに着いてる4人のノドをゴクンと鳴らし齧りついた。
「何じゃ?口の中で肉汁が溢れ出おる」
「ソースが肉汁と融合すると、また何とも言えない味に変化して…………姫様、咀嚼が止まらないです」
「兄ちゃん、これが一番美味しい。肉汁がね、ジュワーって溢れてくるの」
「あわわっ、これが本当に牛の肉なのか?!信じられない」
素人が作れば色合いも食感もペチャっとなり肉質も硬くなる
が、カズトのようにプロが作れば、ギュッと肉汁を閉じ込めたまま美しい断面になる。
ローストビーフの作り方自体は、それ程難しい工程はない。ただ単に手間暇掛かる上に温度管理が大切なのだ。
ローストビーフの作り方は、牛のもも肉をブロックのまま四方八方に焼き目を付ける。ただ焼き目を付けるだけで、短時間で良い。
焼き目を付けたブロック肉を耐熱用の袋に入れ密閉する。それを60℃に保ちながら、お湯の中に入れ低温で湯煎する。
温度計を見ながら火の調節するのだが、これが素人には難しい作業の一つだ。
ましてや、この世界では火の微調整は難しいだろう。だから、ローストビーフぽい物は出来るだろうが、本物のローストビーフはカズトしか作れない代物となる。
はむはぐモグモグ
「あぁ、もう無くなってしもぉた。お代わりはあるかのぉ。ローストビーフとやらを」
「私にもローストビーフとやらを」
「僕もローストビーフ。それとオレンジジュース」
「わ、妾も貰おうかの」
「少々お待ちくださいませ」
ローストビーフのサンドイッチのお代わりが来ると先読みして、予めテーブルより2回り小さい大皿に山盛りのローストビーフのサンドイッチを盛り付けてあった。
一つが軽いサンドイッチでも塵も積もれば山となると言うように大量だと重い。カズトでも足元が確認出来ない程に目の前が塞がってしまう。
「お待たせ致しました」
どんとテーブルの真ん中に大皿を置く。
「こんなに大きいお皿、お店にあったの?!」
「これは壮観じゃのぉ」
「えぇ、まるで一つの山のようです」
「これ、全部食べても良いのか?」
「食べ切れ無かったら、お部屋に持って行く用に包みましょう」
そう言ったが、この4人なら食べ切っても可笑しくない。オレンジジュースのお代わりも注ぎ、最初のお皿を片付けた。
「おーい、注文を頼む」
「はーい、ただいま」
4人の食べっぷりが良い宣伝効果を齎したらしく、宿泊客を始め朝食を食べにいらしたお客様が、次々に3種のサンドイッチを注文が入った。
「これ、美味いな」
「軽くて朝にはちょうど良い」
いつもは、そこまで忙しくない時間帯なのに昼間みたく一気に忙しくなった。
嬉しい忙しさだが、果たして材料は足りるであろうか?一応、こんな事もあろうかとカズトはサンドイッチの材料を大量に用意していた。
「お持ち帰り出来るか?」
「はい、出来ます」
「2人前を頼む」
「それじゃぁ、儂は3人前を持ち帰ろうかの」
テイクアウト用には、弁当箱にキッチリと収まるよう長方形に揃えて提供する。その方が外でも食べやすい。
そして、いつの間にか外側にも長い行列が出来てるではないか?!
忙しい中、チラッと外を見ると何処まで伸びているのか?長蛇の列が見えた。ネットやテレビ、電話がない代わりに口コミや噂で広がる速度が半端ない。
「これは足りるか?」
凡そ1週間分の材料を用意していたはずだが、それも今日1日で、いや…………お昼まで持つかどうか怪しくなってきた。
でも、用意しておいて良かったぁぁぁぁぁ。してなかったら、ものの数分で底をついてただろう。
「仕方無い」
【異世界通販】で追加の材料を注文。予備のカセットコンロを6口並べて、ローストビーフの低温調理をカズト1人で担当する。
ミミや獅子之助が肉は焼けても低温調理は出来ない。常に温度管理が必須で、少しでも見誤れば肉汁が出てしまい失敗になる。
「ふぅ、もうお腹いっぱいなのじゃ」
カズト達が忙しい中、アリス4人がローストビーフのサンドイッチを食い続けて、あんなに大量にあったのに平らげた。
「「「「ご馳走さまでした」」」」
「はい、お粗末様でした」
あの体の何処に、あんなに入るのだろうと常々疑問に思ってしまうカズトである。




