SS11-8、ルーシーのグルメレポート〜3種のサンドイッチとオレンジジュースその2〜
「先ずは、タマゴから頂こうかのぉ」
手に持った瞬間、食パンに挟まれたタマゴがプルンプルンと震えた。まるで産まれたての赤ん坊の肌のように柔らかい。それなのに食パンから溢れずに形を保っている。
はむっモグモグ
幼子の力でも噛み切れる程に柔らかい。それに噛む度、口の中にタマゴの味が溢れ蕩ける。もう幸せしかない。
「これがタマゴの味なのか。タマゴ掛けご飯とは、また違った味だなぁ。食感もまるで違う」
「えぇ、タマゴ掛けご飯はタマゴの味そのものでしたが、このサンドイッチのタマゴは、何か2種類以上のタマゴを調味したものを混ぜ合わせてるような」
そうシャルの言う通りである。
茹で卵とカズト特製マヨネーズをミミが計算した比率で空気を含むように混ぜ合わせ、ふわふわタマゴサラダが出来上がる。
食パンにもタマゴサラダが馴染むようバターを塗り込んであり、しっかりとタマゴサラダを支えている。
「ふわふわでトロトロ。口の中でとろけるよぉ」
満面な笑みで頬張るルーシー。尻尾をバタバタと振り回し、それだけで美味しいという事が見てるだけで伝わってくる。
もぐもぐ
「か、カズトのくせに美味しいではないか」
「リリーシア、呼び捨てはダメだよ。お兄ちゃんと呼ばなきゃ。何度言ったら直すの?」
ルーシーにとってカズトは、血が繋がってなくとも家族として、本当の兄みたいだと心の奥底から慕ってる。
「うぅっ…………お、お兄ちゃん」
「おぉ」
そんなに恥ずかしくされちゃ、こちらも恥ずかしくなってくる。嬉しいが、照れくささが勝ってしまう。
その様子を見てるアリスとシャルは、にこやかな笑みを浮かべ暖かな瞳で見詰めてる。
「仲良くなったところで、次はハムレタスとやらを食べてみようぞ」
名前の通りにハムとレタスを挟んであるシンプルな具材だが、ハムはハムでも生ハムだ。
ハムと生ハムとでは作り方と使ってる塩の量が大分違う。ハムは、湯煮などで加熱にするに対して生ハムは、塩や調味料で味付けした後で燻したり乾燥させる。
見た目は生肉だが、ちゃんと加工してるので安心して生ハムは食べれる。
「これは生肉ですか?」
「生に見えるが、ちゃんと加工してある」
はむっモグモグ
「これは?!これ程に瑞々しい野菜を食べたのは何時振りじゃろうか。それに、この肉の塩気が野菜とも良く馴染む。だが、それだけではないな。この白いソースが全体を纏めあげている」
「そのソースは、シーザードレッシング。レタスには合うのは勿論の事、生ハムの塩気を上手く調和してくれます」
シーザードレッシングは、オリーブオイル、レモン汁、にんにく、塩・胡椒をベースにチーズや温玉を加えたドレッシングの総称だ。
「野菜と生肉が、ここまで合うとは。カズト殿には、いつも驚かされる」
生肉ではないけれど、まぁ見た目はどう見ても生肉だしな。俺も知らないと生肉だと思い込むだろう。
「シャキシャキで美味しい。この肉も力を入れてないのに、スーッと口の中で溶けるよ」
「妾は野菜が嫌いじゃったが…………はむっモグモグ。お、お兄ちゃんが作ったものは美味しい」
まだ照れ臭いのか、リリーシアの頬が僅かにピンク色に染まってる。
「さぁ次で最後と言いたいところじゃが、少しノドが乾いた。オレンジジュースとやらを飲むとするかのぉ」
この世界で飲み物と言えば水かお酒の二択しかない。そもそも果物や野菜を飲料にする発想がない。
ゴクゴク
「ぷっはぁー、この爽やかな酸味と甘味の融合は素晴らしい。何度飲んでも美味しいのぉ」
「えぇ、朝にピッタリな飲み物です」
「「お代わり」」
ほんの数秒でグラスに注いだオレンジジュースは空にした。甘味が少ない異世界では、甘い飲み物なんて無い。
だから、アリスとシャルが一気に飲み干した。もしかしたら、お酒よりもペースが早いかもしれない。
「ふん、こんな奇っ怪な飲み物が美味しい訳」
ゴクン
「…………美味しいっっっ?!甘酸っぱくて美味しい」
あっという間にオレンジジュースを飲み干すリリーシア。それを見てるルーシーがニヤニヤと笑う。
「ねぇ、美味しいでしょう。これ僕の大好物なんだよ。兄ちゃん、お代わり」
「はいはい」
4人でオレンジジュースを何杯飲んだのだろうか?もうルーシーに注ぐ分で、ピッチャーにたんまりと入っていたオレンジジュースは空となった。




