SS11-7、ルーシーのグルメレポート〜3種のサンドイッチとオレンジジュース〜
懐かしい夢を見た気がするけど、何も思い出せない。でも、何だか楽しい夢だった気がする。
「そうだ、早く着替えないと」
もう当たり前となったレストラン“カズト”で働く時の正装:チャイナ服に着替える。今では、これに袖を通すと身が引き締まる。そんな気がする。
「よし、今日も頑張るぞ」
レストラン“カズト”で働き出した当初は失敗する事が多かったが、今では1人で仕事を任されている。
それに今は、妹と一緒に働いてる。あれから、まさかこんなに早く見つかるとは思わなかった。
「あっ、ルーシーお姉ちゃん」
部屋を出ると、ちょうどリリーシアが出てきた。僕とリリーシアの部屋は隣通し。最初の内は同じ部屋で、寝ていたのだけれど、魔族の傲慢さが顔を出し一人部屋となった。
「リリーシアおはよう。今日もリリーシアは可愛いなぁ」
「ルーシーお姉ちゃん、おはようございます。ルーシーお姉ちゃんの方が妾より素敵で美人だし、仕事も出来て完璧です」
いやぁー、僕がもしも男ならリリーシアに抱き着いてるところだ。それ程にリリーシアは僕の妹は目に入れても痛くない。
まぁ再開した当初に散々抱き着いた。その時はリリーシアも満更でもない様子だったが、後に羞恥心の方が勝り、今現在抱き着く事を拒否られてる。
それはそれで悲しいが、成長してる妹を見ると嬉しい気持ちも芽生えてくる。
「一緒に下に行こうか?」
「はい、ルーシーお姉ちゃん」
一階食堂まで来ると、既にレイラ姉さんとドロシー姉さんがそそくさとホールと厨房を往復していた。
昼間や夕方よりお客様は少ないが、宿泊客が少なからずいて朝食を食べている。
「おや?そこにいるのはルーシーと、それとリリーシアだったかの。妾の側に来るのじゃ」
僕ら二人を呼ぶのは、鬼人族の姫様であるアリス様と隣に座ってるのはアリス様の従者であるシャル様だ。
「お呼びでしょうか?アリス様」
「アリスで良いと何度も言ってるであろう?」
「いえいえ、アリス様はアリス様です」
アリス様は他国の王族だとお兄さんに聞いてる。下手に呼んで不敬になったら目も当てられない。
貴族や王族に逆らってはダメな事は赤子でも知ってる事。でも、いくら命令でも呼び捨てだけは止められない。
「姫様、ルーシー様が困って置いてです。その当たりで誂うのはお止めになられでは?」
「そうだそうだ。ルーシーお姉さんを虐めるやつは妾が許さない」
「り、リリーシア!」
従者であるシャル様がアリス様に口を挟むのは問題ないが、僕の妹リリーシアがアリス様に意見を申すのはヤバい気がすると、強い口調でリリーシアを止めようとした。
「妾が悪かった悪かった。リリーシアとやらも、そう憤るな。妾がお主らを呼んだのは、他でもない。一緒に食事を楽しもうとしたからじゃ」
「えっ?!僕らが一緒で大丈夫なの………ですか?」
「なーに、妾とお主の仲ではないか」
たまにアリス様が僕ひ抱き着き、モフモフというものを堪能されている。僕には良く分からない。けど、何か僕も悪い気はしていない。
「それとも何か?もう食べてもうたか?」
「いえ、まだです」
「ルーシーお姉さんと一緒で、まだ」
「そうかそうか。カズト、それで宜しいかや」
「えぇ構いませんよ。まだ、お客様は少ないですし、お客様のご要望を出来る限り尽くすのが我々の役目ですから」
いつの間にか側にお兄さんが立っていた。気配に敏感な獣人に悟られずに近寄るのは至難の業だ。
それを難なく熟すお兄さんは、やはり凄い。アリス様が話し掛けるまで分からなかった。
「それで今日のメニューは何じゃ?」
「今日のメニューは」
ガラガラとカートに載せて運ばれてくる。
「3種のサンドイッチでございます。右からタマゴ、ローストビーフ、ハムレタスとなっております」
ただ単に食パンで挟んだシンプルなサンドイッチではない。使用されてる食パンは、指で押すと弾む程に柔らかい。それでいて、中の具材ともドッシリとボリュームがあり両端の食パンが、それをしっかりと包み混んでいる。
「お飲み物は、朝の目覚めにピッタリなオレンジジュースでございます」
お兄さんがグラスにピッチャーからオレンジジュースをトクトクと注いでいく。
ピッチャーから出る際に柑橘類特有な甘酸っぱい香りが、このテーブル周辺に充満し、匂いが鼻に届く頃には口角が上がり笑みを戻せないでいた。




