32食目、ワイヴァーンのステーキとポテサラ
どうしてこうなってるのか理解不能って表情をして呆然と立ち尽くしてるレイラ。一方、レイラの今の状況が笑いのツボに入ったのか片隅でドロシーが大爆笑してる。
ミミは興味無しという風に俺の手伝いをしてる。先日、とても良い食材が手に入ったばかりで、王様が来店したのが今日で良かった。
「お姉様?!お父様やお母様なら兎も角………何故、ここにお姉様がいるのよ?!」
「シクシク、レイラの扱いが酷すぎしやしないかのぉ」
「あなた、今は我慢しましょう」
レイラとしても、アテナがいる事自体に驚愕するのだ。本来、エルフの国にいるはずで王太子妃という立場なのだから。
普通ならその国を出る事は出来ないはずだ。もし、城の外に出る事はあっても国境を越える事は出来ない事になってる。そう、暗黙のルールなのだ。
「ウチの愛しきレイラに会いに来たんじゃない。帰ったらレイラがいないって聞いた時は心配したわ」
普通に妹の事を心配する姉だな。初対面であんな事をされなければ、カズトもそう思っていた事だろう。
「帰ったら、一緒に湯船に浸かって身体を隅から隅までキレイにしてあげるわ。その後はピーーーーでピーーーーをするのよ」
前言撤回だ!何やら一国の姫様からは絶対に発言される筈のない言葉が厨房まで聞こえてきた。
そりゃぁ、あんな姉だと話したくないわな。最初、お義姉だからと思っていたが排除すべき汚物だと感じてきている。
まぁ納得させない限り、追い返してもまた来るかもしれないし今日この時に決着させないと。
「カズト、言われた通りにソース出来たけど………これ本当に美味しいの?普通魔法の媒体にしか使わない素材だけど………」
「おぅ、美味しいぞ。後は任せとけ」
カズトは先日討伐したワイヴァーンをアイテムボックスから取り出し、ステーキ肉の大きさに切り分ける。脂身は出来るだけ切り落とす。
筋を切るため格子状に隠し包丁を入れ、肉叩器で柔らかくなる様叩いていく。これで下拵えは完了だ。
焼く前に塩コショウをまぶし、隠し包丁を加えた箇所にも充分に行き渡らせる。
後は焼くだけだが、焼くという工程が一番難しい。火入れを少しでも間違えると固くなり過ぎたり、中まで充分に火が入らず生のままになってしまう。火入れの見極めが料理人の腕の見せ所だ。
そこでカズトが使うのが"ガス"ではなく"炭"だ。ただし、最高級と言われる"備長炭"を使う。
炭火で焼くと、遠赤外線で外はカリッと中はフワァ~っと仕上がり芳ばしい香りも付き一石二鳥の焼き方である。ただし、火加減が難しく料理人の腕が問われるところだ。
「………さすがです。ミミでもここまで素晴らしい火入れは出来ません」
カズトの事べた褒めだ。ミミって勇者パーティー組んだ時からずっと好意を抱いてらしいが、何故カズトに好意を持つ様になった理由は何度か聞いた事あるが話してくれない。
「よし、焼き上がりだ。鉄板を出してくれ」
「………はい、熱々に熱してあります」
ミミが用意した鉄板にワイヴァーンのステーキを盛り付けていく。付け合わせは、適当にカットしたジャガイモの揚げ物、コーン、茹でたブロッコリーを供え付ける。
最後にミミが作製したソースを廻し掛け、ワイヴァーンのステーキ~血のソース和え~の出来上がりだ。
「………ポテトサラダ用意出来てます」
「おっ、先読み出来る様になったな。サンキュー」
カズト特製マヨネーズを蒸かしたジャガイモに混ぜたシンプルなサラダだが、シンプルだからこそ奥が深くここでしか食べられない料理の一つだ。
もちろん、ワイヴァーンのステーキもその一つで、普通なら貴族御用達の高級店しか出せない代物だ。
それを一般人にも手が届く値段設定にしている。しかも、クオリティーはこちらの方が上ときている。まぁ出せるのは、材料が入手出来た時に限る。
「お待たせ致しました。ワイヴァーンのステーキ~血のソース和え~でございます。サラダはポテトサラダでございます」
出されたステーキは黙々と湯気が登っており、見ただけで温かい料理なのは明白だ。それに加え出された瞬間、香りが漂い鼻の中を通り過ぎていく時に頬がどうしても緩んでしまう。
「か、カズト様、今ワイヴァーンとおっしゃいました?」
「はい、ワイヴァーンでございます」
「そ、そんな高級食材を一体何処で?」
アテナの疑問をカズトの代わりに王様が答えてくれた。
「先日、勇者殿一人でワイヴァーン討伐したのであったな。我が国の冒険者は不甲斐ない」
「いえいえ、俺━━━いえ、私が辿り着くまでの間、古都や王都に押し寄せるのを止めていたのは、この国が誇る冒険者なのですからもっと誇りを持って下さい」
王様とカズトの話を聞き驚愕に染まるアテナ。横に座ってる王妃様はクスクスと笑っておられる。
「父上、ちょっと待って下さい。ワイヴァーンはA級モンスターですよ。それをこんな男に倒せるとは━━━」
「アテナ、口をつぐみなさい。彼は勇者なのだ。この国━━━いや、この世界最強の者なのだよ。それをこんな男とは無礼にも程があるぞ」
王様が滅多に怒る事はなかなかない。今日店を訪れた当初は、アテナが初対面という事もあって怒りを抑えていたのだろう。しかし、二度目は流石に堪忍袋の尾が切れた。




