188食目、《戦車》vs剣その6
黒刀・影花に貫かれた脇腹を押さえた。血は出ておらず、傷口は直ぐに塞がった。
だが、違和感を拭えない。何かこう、異物を混入されたような感覚がある。
「一体何をした?」
「ギャハハハハ、これでお前もお仕舞いだぜ」
高笑いするだけで、こちらの質問には答えてくれない。だけど、直ぐに答えは分かった。
「な、何だ?これは!」
貫かれた脇腹から徐々に黒い血管ぽい物体が広がって来る。これは珍しい状態異常〝侵食〟全身に回ってしまうと、侵食を送った相手の操り人形と化してしまう。
「影花が言うんだよ。お前が欲しいとな。だから、仲良くしようぜ」
「こ、断る!」
ペロッと黒刀・影花の刃を舌で舐め、薄ら笑いする裏クルミに対してゾクッと悪寒がした。
「そう言わずによぉ。オレたちゃぁ仲良く出来ると、オレの勘がそう告げてるしよぉ」
「そんな事は知らん」
今にでも泣きそうな表情で訴え掛けて来てる。男の泣き落としなんて誰得って感じだ。
それを考えるなら、まだ表の方がマシだ。
「そうか……………なら、死ねや。【負の圧力】」
黒刀・影花の黒い刃が更に光を吸い込むような濃い黒へ変貌を遂げる。
その変化に合わせてカズトの体内にある【侵食】の血管が、ドクンと蠢き拡散しようとしている。
「グッ!こ、こんなもの」
ズボッ
カズトは自らの身体に手を突っ込み、【侵食】で侵された脇腹付近の肉を削り取るように外部へ排出し、その場に投げ捨てた。
削り取った箇所は、そこを埋めるように元通りだ。まぁ今の身体は水だから当たり前と言えば当たり前だ。
「最初からこうすれば良かったんだ」
【侵食】から来る倦怠感が、すっかり失くなった。【侵食】に侵された肉は、あっという間に真っ黒になり破裂した。
「そんな手があったとは!」
俺自身も実は驚いてる。まさか上手く行くとは思いもしなかった。何となく【侵食】があった脇腹を擦るが痛みは無く健康そのものだ。
「さぁこれで仕切り直しだ……………な」
「なっ!グヘッ」
意趣返しだ。裏クルミが影による転移で攻撃をしたのと同じように俺は空気中の水分を使い、一瞬で裏クルミとの距離をゼロとし頬を殴り飛ばした。
不意打ちに近い形で入ったため防御は間に合うはずもなく、もろに顔面に入った。
「ど、どうやって移動した!」
「教えるはずないだろ」
影の転移とは違い、空気中の水分を用いた転移ならこういう事も出来る。
「うわっ!危ねぇ」
身体の一部だけを飛ばし攻撃をする事も可能。気配を感じ避けたようだが、そう何度も避けられるものではない。
「オラオラオラオラ【水拳連撃】」
実妹であるリンカ程ではないが武術を嗜んでいたからか、剣と同じく素手でも強かったりする。
「チェストォォォォォォ」
「ゲフッ」
何発打ち込んだか数えてないが、少なくとも百発は有に越えてると思う。
戦車並みに硬い体を持つ裏クルミが顔の原型が分からない程にボコボコとなってるからだ。
「ゴホッ、お、覚えていろよ。今度こそ、お前を殺してやるからな」
「あぁ、はいはい。分かった分かった」
そんなボロボロな状態で言われても全然怖くない。
「ゲホッ、【武器庫】解放」
再び【武器庫】らしき空間が開き、その中へ裏クルミは入って行く。
本来なら追い掛け倒すべきだが、カズトも限界に近い。もう気迫で立ってるような状態だ。
「お前を倒すのはオレだからな」
「早く行け」
【武器庫】が閉じたらしく、裏クルミの姿は消えた。それを確認すると、ドサッと地面に座り込み【水の妖精】を解く。
「プハッ、これはキツいわ。どんなに金貨を積まれても割に合わねえわ」
まだ魔王と戦った方がマシというもの。まぁ瞬殺だから本来の魔王が、どの程度強いのか知らないが。
「痛っ!無理をし過ぎたか」
【水の妖精】の効果で幾らか癒されたが、【紫電一閃】の反動がまた残ってる。
「しばらくは、まともに動けないな」
勝ったには勝ったが、カズトはここでリタイアするしかなかった。




