186食目、《戦車》VS剣その4
別人格の《戦車》だと長いから、これから裏クルミと呼ぼう。
裏クルミが迫って来る中、雷の聖剣タケミカヅチを片手に握り締め、最後の力を振り絞り最後になるであろう技術を使用する。
「連続で奥義を使うとは思ってもみなかったぜ」
「むっ、何か嫌な予感がする。早く仕留める」
勝負の決め手は、ほんの数秒の差。勝負は、時に運も必要になってくる場合がある。
ピシャァァァァァン
「手応えが変な感じだぜ」
「ふぅ、どうにか間に合ったか」
カズトの身体が半透明で向こうの景色が見える程に透き通っている。右腕が切られたが、ほんの数秒で元通りに生えた。
「水の聖剣ウンディーネ奥義【水の妖精】。どうにか問題ないようだ」
手をグゥパァグゥパァと繰り返し握り、自分の体に異常がないか確かめる。連続で奥義を使った事はない。
どうやら賭けには成功したようだ。外傷はもちろんの事、体力までも全快している。
「どういう事だ。オレは確かに切った。そのヘンテコな姿へなった事に理由がありそうだ」
「水を何回切っても無駄だと言う事だ。それに、この姿はヘンテコじゃない。これは可愛いと言うのだ」
杖の勇者である瑠璃とマーリン第二王女であるニーニエに可愛いと言われたこの姿をヘンテコと呼ばせはしない。
「ふん、そうかい。なら、その可愛い姿でオレに勝ってみせるんだな」
速い!俺の腕を切り落とした時よりも数段速い。目で追えるギリギリの速さだ。少しでも見失ったら見つけられない。
「これをかわすか」
「いや、ギリギリですよ。【泡爆弾】」
二人の周囲にシャボン玉が浮遊している。それに少し衝撃が加わり、連鎖的に破裂した後、衝撃波を二人に襲い掛かる。
「惨い事をしやがる。自分ごとやるとは」
「これを防ぐとは、あなたも相当ですよ」
ほぼゼロ距離で破裂させたにも関わらず、黒刀・影花の刃の形状を変え盾にして防いだ。
あの一瞬で防御に徹するとか普通なら間に合わない。反射神経が半端ないし、黒刀・影花を使いこなしている。
俺自身は、今現在体が水なので衝撃を無効化出来る。その代わりに裏クルミの速度には、着いて行くのはギリギリでヤバイ。
だが、【水の妖精】を解除したら殺られる。
それならどうすれば良いのか?
「しゃらくせぇ。さっさと死ねや【影裏斬撃】」
黒刀・影花の刃が幾重にも重なって見える。まるで影で出来た刃が連なっているようだ。
「丸見えだ。【水分感知】」
普通の【感知】とは違い、水を探す事に特化してる。普通なら水源を探す事しか使い道がない。
だが、【水の妖精】状態のカズトの使い方は違う。
「なに?!避けただと」
「だから、丸見えだと言った」
体内に水分を持っていない生物は存在しない。敵の体内にある水分を察知して、目で追えなくとも何処にいるかが分かる。
それに加え、極めれば空気中にある水分でさえ感知出来るようになり、それはまるで高性能のレーダー探知機のようで、最早相手はクモの巣に引っ掛かった虫同然だ。
手に取るようにして相手の動きが分かる。
「グヘッ」
「後、隙ががら空きだぞ」
カウンター気味に脇腹に一発良いものをお見舞いしてやった。肘から水をジェット噴射させ、勢い良く捩じ込んだ。
「名付けて【水流拳】かな?」
「ゴホゴホ、女の体に酷い事をしやがる」
「何を言ってるんだ?そんな事を言ってたら、命が軽い世界では生き残れないよ」
グゥの音も出ない正論を言う。地球にある日本では間違っているかもしれないが、こちらの世界で命の軽さを痛感してしまっている。
だから、最低でも手の届く範囲で苦しめられてる人達を助け笑顔に出来たらと勇者と料理人をやっている。
「ふっははははは、これは一本取られたぜ」
何処か笑いのツボに入ったのか?裏クルミは甲高い声で笑う。
「だけどな、隙を見せたのに攻撃を仕掛けないのは、とんだ甘ちゃんだぜ」
「なっ!」
油断した。笑ったのは油断を誘うためか?それでも常に【水分感知】を展開してるのに関わらず、いつの間にか懐に潜り混まれた。
「おらぁ【影魂削り】」
「くっ!」
避けたはずであった。だが、僅かであるがダメージを負った。いや、正確には体の何処も切られていない。切られたのは俺の影だ。
俺の影が一部欠けている。
「半分くらい削り取るつもりだったのによ。運の強いヤツだぜ」
「影を切って、影を全部切ったら死ぬのか?」
「その通りよ」
それが分かれば、いくらでもやりようはある。




