SS11-2、ルーシーのグルメレポート〜耳と尻尾〜
僕は、子供でも獣人である犬人族だ。チンピラ達には勝ててなかったけど、本来はそこら辺の人間の大人になんか負けない程に身体力は高い。
「うぅ~、兄ちゃん痛いですよ」
「ウルサイ、俺の用事が終わってないのに帰ろうとするからだ」
そんなに痛くないが、頭を擦る僕。兄ちゃんの用事って何だろう?やはり、僕を何処かへ売る積りなのか?
でも、兄ちゃんがそんな事するとは1ミリも思っていない。あの肉串をくれた人間に悪い人はいないはすだと、勝手な僕の思い込みが発動する。
「………お前!女の子だったのか!それにその耳は………」
急に風が吹き深く被っていたフードが、バサッと捲れてしまった。隠していた犬耳を見られ、僕はビクッと体を振るえる。
み、見られた!
一番見られたくないものを見られた。これが原因で、人間達から罵倒・暴力を振るわれて来た。
だから、バレないようにフードを深く被り隠して来た。僕にとって、この耳はコンプレックスであり、切り落としせるなら切り落としたいと常に思ってる。
だが、それは出来ない。この世界では、自傷や自殺の死亡割合は零である。
それは女神シロが世界全体に掛けた祝福により自分自身を傷付けられないように絶対不変のルールとして根付いてるからである。
「見ないで!この耳醜いでしょ。それに尻尾もあって…………」
「何を言ってるのだ?可愛いではないか」
可愛っ?!この僕が可愛いだって!
可愛いって言われたのは初めてだ。あるとすれば、パパとママ位なもんで自分の容姿で褒められ馴れてない。
ヤバい、今の僕の顔はニヤニヤと口角が上がって兄ちゃんに見せられない状態となっている。
「か、かわっ!僕の何処が可愛いと言うのだ」
顔をうつ伏せながら抗議した。別に嬉しくないけど、今は兄ちゃんの顔をまともに見れない。
モフ
「ご、ご冗談が…………」
そんな僕の耳を触る兄ちゃんの手が、あまりにも気持ち良くて言葉が跡切れ跡切れとなってしまう。
モフモフ
「ご冗談が━━━」
モフモフモフモフ
「上手━━━」
モフモフモフモフモフモフ
「なのだ!って、兄ちゃんは一体何をしてるのだ」
最初はスルーしようとしたが、話が進まないので兄ちゃんの手を払った。ハァハァ、兄ちゃんは変な人だ。それよりもチンピラ達が、言っていた事を思い出した。
「大人しいだけど、大丈夫か?」
「最初ビックリしただけで、僕は大丈夫です。それよりも、ゆ、勇者ってのは本当なのか?」
そう、チンピラ達は確かに目の前の兄ちゃんに対して勇者と言った。最終的に勘違いという事で片付けられたが、勇者ならあの強さに納得出来る。
「………あぁ、本当としか言えないけど、信じるのか?今日、会ったばかりの男の戯言を………」
「うん、信じる………ていうか、こんなスピードで飛び回るヤツなんて他にいないしな。やっぱり噂って本当だったんだな」
あの噂の人物が勇者だと、色々納得出来る。勇者は、他のどの種族よりも身体能力が高く、それにお人好しが多いらしい。
兄ちゃんは、孤児を中心にスラムの人達に料理を提供してるらしい。その名を料理仮面と、料理を食べた者はそう呼んでいる。
顔が分からないように目元に仮面を被ってるから、そう呼ばれている。まぁ僕を助けた時は仮面を被っていなかったけど、きっとあの料理仮面に違いない。
「それで返事を聞かせてくれ。俺の店で働いてくれるかい?」
店?兄ちゃんの店?兄ちゃんが勇者という事は、このところ繁盛してる料理屋の事か?
もちろん僕は遠目にしか見た事ないが、離れていても良い匂いが漂って来ていた。
明らかに賑わっており、店から出て来る客は、みんな満足そうな笑顔で帰っていく様子が遠目でも見て取れた。
「一つだけ条件があります。僕には生き別れの妹がいるのです。その妹の捜索を手伝って貰えませんか?」
兄ちゃんの店で働けるなら、当分の間食い扶持には困らないだろう。だがしかし、僕にはやらないといけない事がある。
それは、妹を探し出す事だ。父さんと母さんが死んだのと同時期に行方不明となった。兄ちゃんが勇者ならコネの一つや二つはあるだろう。
「あぁ良いぞ。俺は勇者だからな。いろんなところに顔が利くから任せとけ」
一瞬考える素振りを見せられるが、何の躊躇もなく僕の条件を飲んでくれた。だが、この後僕は少し後悔するのであった。




