SS10-4、ジョルの仕事〜ブラン消滅〜
あんなに鱈腹肥えていたブランの面影はない。ブランと言われなければ、最早誰だか分からない程に痩せこけ、ミイラみたくなっている。
「まだ幸運が排出すると言うのか!」
こんな状態になってからも湯水のように幸運が排出し、ジョルへ降り注ぐ。まぁジョル以外には見えていないが。
「ふぅ、やっと出し尽くしたか。これだけは化け物レベルだったな。ご馳走様」
幸運を出し尽くしたブランは魂諸共消滅した。魂が消滅すると輪廻転生は出来ず、新たな生命として生まれ変わる事が一生出来なくなる。
これが《愚者》から教わった事。今までは、幸運を搾り尽くしても相手は消滅する事は無かった。
最悪で廃人になるまでで生きてはいた。正確には《愚者》に教わるまで全部幸運を搾り尽くす事により相手が消滅するなんて知らなかった。
「ふぅ、こんなカビ臭いところから颯佐とおさらばだ」
ブランが繋がれていた牢屋の他にも十数部屋牢屋が並んでおり、それらの中には何時死んでもおかしくない程に衰弱してる獣人が放置してある。
「…………ヒドいものだ」
衰弱ならまだ良い方。手足が千切れてる者もいて悪臭で慣れていても吐きそうだ。
「1号いるか?」
「はっ!こちらに」
「まだ生きてる者は我らの部隊に入れるために連れて行け。後で治療してやる。死んでる者は丁重に葬ってやれ」
「はっ!直ちに」
ずっとここにいたら鼻が曲がってしまう。上の階に上がろう。それにしても裏で獣人好きだと知られていたブランだが、実際のところはヒドい事をしていた。
ブランの側にいて良い思いをした獣人は一握りだろう。
「ジョル様、こちらにいらっしゃいましたか」
「お前は14番か」
警備隊の隊長をやってる犬人族の男だ。何か焦ってる様子で息を切らしてる。
「そんなに慌ててどうした?」
「旦那様が行方不明なのです。何処にも見つかりません」
ブランが消滅した事は、オレとアゲハ隊の面々しか知らない。それにしても、まだブランが消滅してからそこまで時間は経っていない。
14番は、よっぽど優秀か?ブランが連れ去る現場を見ていたか?の、どっちかだ。
連れ去る現場を見ていたなら、そもそもオレに話し掛けるはずはない。ふむ、コイツも連れて行き部下になる獣人の面倒を見て貰おう。
「ブラン様にお前らを託されたのだ」
「託された?どういう事ですか?!」
「お前の【隷属の首輪】を見てみろ。外せるようになってるはずだ」
奴隷の証である【隷属の首輪】は、奴隷の所有者本人から直接外して貰うか死亡した場合に外せるように出来ている。
「えっ?そんははずは」
14番が首元にある【隷属の首輪】に触ると、何の抵抗もなくパキンと前後中央から割れ床に落ちた。
これは後者の場合の現象だ。つまり、ブランは死んだ事を意味している。
「えっ?外れた?」
「【隷属の首輪】は、その主人に外して貰うか主人が死んだ時にしか外れない」
余りにも簡単に外れてしまった【隷属の首輪】を見ては、自分の首元を何回も擦ってる。
奴隷にとって【隷属の首輪】を外し自由になる事が夢だ。しかし、いざ外れたとなると、その実感が持ち辛いものだ。
「旦那様……………いえ、本当にブランは死んだのですか?」
「あぁ死んだ」
【隷属の首輪】が外れても中々信じられるものではない。奴隷にとって喜ぶべきところだが、大抵帰るべき場所がない彼らにとって途方に暮れる者も少なくない。
「それで死体はあるのですか?」
【幸運全吸収】により消滅したから死体はない。
「死体はない」
「……………そうですか」
「信じるのか?」
「ジョル様はウソをついてませんから」
犬人族に限らず、鼻が利く獣人は匂いで何かを察知出来る技術を持ってる事がある。
14番の場合は、匂いでウソを見分ける技術があるらしい。
「分かりました。ジョル様に着いて行きましょう」
ブランに頼まれた事はウソだが、立場上ブランのキナ臭い噂を度々耳にしていた。
ここにいるよりは生活は改善するに違いない。
「ジョル様、お願いが御座います」
「うん?何だ、言ってみろ」
「他の者達も連れて行っては貰えませんでしょうか」
「元からその積りだ。お前らと言っただろ?」
自分だけではないと気付き、自然と涙が溢れ頬を伝い落ちる。あぁ本当に神様が見ていたら感謝の言葉しかない。




