SS10-3、ジョルの仕事〜ブランの処理〜
グビグビと5杯はエールを飲んだであろうブランは、酔いが回って来たのか?顔全体が赤く染まり瞼が重く今にでも閉じる寸前だ。
ソファーで、グッタリと重い身体を横にし微動だにしない。どうやらエールに入れた睡眠薬が聞いて来たようだ。
「グゥグゥ」
「やっと寝たか?」
エール一杯でも眠るはずの睡眠薬を5杯で、ようやく寝てくれた。予想よりも睡眠の耐性が強かったという事か。
それはさておき、オレは音を立てないよう廊下へ出る。
「おい、お前らいるんだろ?」
「「「「はっ!」」」」
黒装束に身を包んでる者達数名が、ジョルの足元へ片膝を付き頭を垂れるように現れた。
「ご無事でなりよりでございます」
「我ら、アゲハ隊ジョル様の帰りをお待ちしておりました」
「それで、とうとうブランの旦那を殺るんですかい?」
「こら、先に言うんじゃないよ。ジョル様が説明するんだからさ」
けして表情には出さなかったが、オレの部下達もブランの事を相当恨んでいたらしい。
「見ていたと思うが、牢屋へ繋いでおけ」
「直ぐに殺らないのですかい?」
「意識がある時に自分が死ぬと理解した方が、最も絶望するだろ?」
「我が主ながら、すえ恐ろしい事を考える。そこに尊敬致します」
アゲハ隊の面々は、ブランを牢屋に連れて行くため、神輿のように担ぎ、エイホエイホと運んで行った。
その際、オレは見送り、ブローレ商会を散歩するかのように隅々まで見て回る。
名残り惜しいように時折壁を摩りながら、まるで我が子を愛しむように歩いて行く。ブラン同様、ブローレ商会も消える運命とあるのだから。
「ブランを牢屋へ繋いで置きました」
「ご苦労。まだ起きてないか?」
「はっ!まだ眠っておられます」
強力な睡眠薬を盛ったんだ。そう簡単に起きられても困る。起きるまでオレは、ブローレ商会を歩き回る。
産まれた故郷は、もう既に忘れたが、ブローレ商会が第二の故郷と心の奥底から常に思っていた。
だから、思い出として忘れないように壁や天井のシミ一つ一つを瞳に焼き付けていく。
「ブランが起きたようです」
「そうか、今行く」
数時間歩き回り、ほぼブローレ商会全体を瞳に焼き付けられた。これで思い残しはないはずだ。
「うっ…………ここは何処だ?何故、我輩は鎖に繋がれているのだ?」
「お目覚めですかな?ブラン様」
「おぉジョルか?!早く、この鎖を解くのだ」
「まだ気が付かないとは?ブラン様……………いえ、ブラン」
ジョルの呼び捨てにより、ようやく自分の危機に気付いたようだ
「ジョル!我輩は、ブローレ商会会長のブランであるぞ」
「えぇ分かっております。ただし、それも今回で終わりです。我が主の命により、ブラン…………アナタを殺します」
殺すという言葉とジョルの殺気にビビったらしく後退りをしようとするブランだが、直ぐ後ろは牢屋の壁がある。
「お前の主は我輩だぞ」
「いいえ、オレの主は後も先も教祖カノン様だけだ」
「ガッ!ゲホゲホ」
つい怒りに任せ、ブランの首を片手で握り締め持ち上げる。アゲハ隊の部下四人で、やっと持ち上がる巨体を難なく片手で宙に浮いた。
「はっ!いけまけんいけません。今、殺しては怒られてしまいます。この腐れ外道でも、オレの糧になるのですから」
ドサッ
我に返り首を締めていた手を放した。ブヒブヒとブタみたいに息を吸うブラン。放した衝撃で鎖の金属音が鳴り響く。
「ヒィヒィ、止めてくれ。金ならいくらでも」
「ふん、オレの技術はお忘れですか?」
《運命の輪》であるジョルの技術を用いれば、腐る程のお金が生み出せる。
まぁそれは使い方の1つに過ぎない。自分も知らない使い方を《愚者》から耳打ちで教わった。
「もう、その臭いお口は閉じてくださいね」
この豚を触る事自体が嫌でしょうがないが、オレの技術の発動条件が直接触る事で仕方無い。
「では、サヨナラでございます。【幸運全吸収】」
「や、止めろ!止めてくれぇぇぇぇ」
光り輝く右手を豚に触れた途端、何かがブタ《ブラン》から噴き出てはジョルに降り注いでいる。
「どんだけ運を溜め込んでいるんだ?」
本人に自覚はないが、流石はグフィーラ王国一の商会であるブローレ商会の会長であった男である。
Sランクの商人を目指すなら類稀ぬ経営手腕や商談を成功させる人望が必要になるのは勿論だが、最も必要になるのは豪運だ。
豪運によりお金がお金を呼び、人が人を呼び、商品が新たな商品を呼ぶものだ。




