SS10-1 ジョルの仕事
ジョルは、ブランの言い付けというより責任を取らせる形でとある方のところまで足を伸ばしていた。
「我が主、お久し振りでございます」
「珍しいな。お前がここに来るなんて」
ジョルが転移して来たのは、冒険者ギルドが長年探してる魔神教会総本山である。雇い主であるブランもこの場所は知らない。
そして今、目の前にいるのは魔神教会教祖様である皇花音、盾の勇者である。
「今は、ブローレ商会とやらにいるんだったわね。何かトラブルなのかな?」
「はっ、ブローレ商会地下で造らせおります銃が何者かにバレた可能性があります」
片膝を地面に付き頭を垂れ、教祖カノンの言葉を待つジョル。この失態は、自分が消されるかもしれない案件なだけに冷や汗が止まらない。
「…………!!」
教祖様カノンが玉座から立ち上がり、こちら側へと近寄って来る音が聞こえる。その音は死神のような音に聞こえ、死神の鎌が自分のノドに触れてるのような錯覚に陥る。
「それで何処の誰にバレたのかな?」
「それは、まだ解りません。相手は粘体族でして、撃退したのは【分身体】のようでして」
「【分身体】、本体は別にいて情報を持っていかれた可能性がある訳ね」
「調べさせて貰ってますが、どうやら銃が一丁失くなってると報告が」
銃一丁が紛失してる事実にピクッと教祖カノンの眉毛が動いた。
教祖カノンの先程までの雰囲気とは、ガラリと変わり冷たい空気が流れ、この空間だけ温度が氷点下に達したかのような錯覚を全員が感じている。
今だに頭を垂れ片膝を着いてるジョルは、ガクガクと震えガタガタと歯を鳴らして止まらない。
「ふぅー、《愚者》よ」
「はっ!教祖様、何でしょうか?」
「この《運命の輪》に拷問をしろ」
「畏まりました。ですが、その間の教祖様の護衛とお世話は」
「《世界》が、いれば十分でしょ?さぁ、早く連れて行きなさい。死なないようにね」
教祖カノンの命令により《愚者》は、《運命の輪》の首根っ子を掴み引き摺り部屋を出た。
抵抗しようにも《愚者》の腕の力が強く振りほどけない。
「ほら、ここが牢屋だ」
牢屋の扉を開けると、ぶん投げられるように入れられた。壁に当たりジンジンと背中が痛む。
「さてと、久し振りの拷問じゃから楽しみだ」
《愚者》は見た目で騙されてはいけない。一見ただの老紳士に見えるが、その威圧感から強者と見受けられる。
それに教祖カノンの護衛を任されてる当たり、幹部の中でもトップレベルに強い。
《運命の輪》には、《愚者》に勝てるイメージが湧かない。【確率変動】を用いても、そもそも勝てる確率がゼロなのだから勝てない。
「それじゃぁ、脱いで貰おうか?」
ここで拒否しても痛い目に合うだけだと思い、《愚者》の命令に従った。
上半身も下半身も脱ぎ、産まれたままの姿となる。そのうえで両手首に天井からぶら下がってる手枷付の鎖をガチャと取り付け、鎖を巻き上げたところで両足首にもジャランと手枷付の鎖が付けられる。
これにもり全裸で宙に浮いた状態となった。ジョルの肉体は、衣服で分かり難かったが《運命の輪》の技術を使うまでもなく鍛え上げられており、ブローレ商会のブランの右腕としてやってきただけはある。
「隠れマッチョというやつか。其れほどに鍛えていれば、儂の拷問に耐えるじゃろう」
《愚者》は、バシンと右手に持ってる鞭を床に勢い良く叩き付ける。
「さぁ、儂の拷問を受けておくれ」
教祖カノンには見せない気持ち悪い笑みで鞭をジョルの肉体に向けて奮う。
鞭が当たった箇所は、青アザとなり痛々しい。当たり箇所が悪いと皮が捲れ血が滲む。
木や鉄の棒で叩くよりも効果的だ。何故なら鞭は達人が使えば、鞭の先は音速を超えるという。
正に柔軟性のある銃弾を受けるに等しいかもしれない。これを一般人が受けるなら数回で拷問に耐え兼ね情報を話すかこと切れるのどっちかだろう。
「うっぐっぎゃっ」
仕事柄、拷問に慣れてるジョルでも《愚者》の鞭裁きの中では、声とならない音を漏らしてしまう。
だけど、まだ意識は保っていられる。薄暗い牢屋の中では分かり難いが数え切れない程のキズが、拷問に慣れてると告げている。
「ほらほら、まだ儂の拷問は終わりはせんぞ」




