SS6-15、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜うな重〜
「お待たせ致しました」
「お、遅いぞ。もう腹が減り過ぎて、背中と腹がくっつきそうじゃったわ」
注文が入ってから一時間程過ぎてる。そりゃぁ、お腹は減る。減り過ぎてるからか?ぐてぇーっと、アリスが椅子の背凭れに寄り掛かってる。
「何分調理に時間が掛かる料理でしたので、お許しを」
「そういうのは良い。早う、食べさせてくれ」
カタッと黒くて四角い箱をアリス・シャル・ライフの目の前に置かれた。
「蓋をお開けくださいませ」
「こ、これは?!」
蓋を開けるのと同時に湯気が立ち昇り、なんとも香ばしい香りが鼻に付く。この匂いだけで頬がニヤけてしまう。
「これは魚か?」
「早速食べてみましょう」
「「「いただきます」」」
パクっ
ウナギの蒲焼きを箸で食べやすい大きさに切り分け、タレが掛かったご飯と共に口へ運んだ。
「これは!何と証言したら良いのか分からん。分からんが、とてつもなく美味じゃ」
「食べた事ないはずなのに懐かしい味」
「これは何杯も食えそうだわ」
「それは、ウナギ―――――こちらではヌメヌメヘビと言いましたか?」
「「「ヌメヌメヘビ?!」」」
ガチャン
ヌメヌメヘビと聞いた途端、三人とも箸を落とした。グフィーラ王国だけではなく、大抵の川なら何処にでもいるとされる雑魚だとされてるのがヌメヌメヘビという魚。
まぁ所謂、異世界によるウナギの蔑称だ。他の肴とは違い、ヌメヌメとまるでヘビみたいな見た目でヌメヌメヘビと安易に、いつの間にか定着した名前だ。
他の魚の罠にも良く引っ掛るので漁師には忌み嫌われいるだとか。だが、安価で手に入り何も食材がない時なんかはヌメヌメヘビを食べるとか。
「これがヌメヌメヘビじゃと!」
「し、信じられません。パクっ、あんな不味いヌメヌメヘビが、パクっ、こんなに美味しくなるなんて、パクっ」
「カズトは天才か!」
まぁ何でも調理次第で美味しくなるものだ。ここら辺では、薄い塩のスープにヌメヌメヘビをぶつ切りにして煮込んだり、ゼリー寄せという料理が一般的らしい。
知識としては知ってるが、見た目がグロテスクな上に不味い。好き好んで食べる代物ではない。
「俺が考えた訳ではないけどね。俺の故郷の料理さ」
「勇者の世界の料理」
「美味い訳だな」
「お代わりをご所望なのじゃ」
早っ!流石は鬼人族の姫。数ある種族の中でも一位と二位を争う胃袋の持ち主と言われる種族。
因みに、もう一つの種族は龍人族で、その次が巨人族と続く。
「はいよ。後、こちらも試してくれ。う巻きと肝焼きだ」
ウナギの蒲焼きを作る際に出た端切れと内蔵を勿体ないから作った。最初は賄いで作ったものだが、これは美味しいとお試しとして提供した。
う巻きは、ウナギの蒲焼きをだし巻き卵の中に包んだものだ。卵とウナギの相性が良く何個も食べてしまう。
肝焼きは、文字通りにウナギの内蔵を串焼きにしたものだ。胃、腸、肝臓をタレに浸け焼き鳥みたく焼いていく。甘辛いタレに内蔵の苦味が混じり合い、これが酒の肴にピッタリだ。
パクっ
「これも中々、美味しいな」
「酒は欲しくなってくるのぉ」
「姫様、温泉でも飲んでましたよね」
「良いじゃないか。そう、ケチケチするでない」
そう申すと思い、既に用意済みだ。ジョッキを並べ、そこに冷えた生ビールを注ぎ込む。
上部の2割程を泡で蓋をする。泡で蓋をする事で、下の液体部分が蒸発せずに適温に保ち最後まで美味しく感じる事が出来る。
「おぉ、分かってるでないか」
ゴクゴクぷはぁー
「これぞ、生きてるって実感する瞬間よ」
「姫様、ダラしないです」
「まぁまぁ折角注いでくれた事ですし我々も飲みましょう」
シャルは、ため息を付きながらも美味しそうに一気飲みをした。ドカッと空になったジョッキをテーブルに置くと、こちらに目配せをした。
ドボドボシュワシュワ
「どうぞ」
ゴクゴク
「ぷはぁー、やはりカズト殿のエールは美味い。それに、この肝焼きとやらが妙に合う」
「シャルよ、お主も良い飲みっぷりだのぉ」
「姫様には負けます」
「ライラも飲んでるか?」
「の、飲んでます」
ちびちびとライラは飲んでいる。目の前の二人が酔っ払った時を考え自分はセーブしていた。
「カズト、瓶ごと寄越せ」
「あっ、はい」
まだ蓋を開けてない瓶ビールをアリスに渡した。何をするのかと思えば、親指で弾くように蓋を開け、ライラに近寄る。
「ライラ、何チビチビと飲んでおるか」
「ら、ライラ!ち、ちょっ!」
「ほれ、妾の酒が飲めぬと申すのか?」
瓶の口をライラの口に突っ込ませた。




