30食目、帰らないは地獄、帰るのも地獄
ワイヴァーン討伐後に開催された宴会が終わったのは、夜で今から行動が危険と判断した冒険者に夜営の誘いをカズトは受けるが店を任せており帰る事にした。後日、ワイヴァーンの素材をギルドに預ける事とレストラン"カズト"に寄る事を約束して。
ちゃっかり自分の店を宣伝するカズトである。
「いやぁー、怒ってるかな?怒ってるだろうな」
ため息を吐きながらも、ほんの一時間で自分の城へと到着した。まだ明かりは点灯しており、時間的にも営業時間内だ。
恐る恐る扉を潜り抜け颯爽と自分の部屋へ無事に到着出来ると思いきや突然肩を叩かれ捕まれた。
「カ~ズ~ト~、遅かったですね。何処をほっつき遊んでいたんですかな?かな?」
「私達が納得いく説明をお願いします」
後ろを戦々恐々と振り向き、そこにはレイラとドロシーが怖い方の満面な笑顔で立っていた。
まだ営業中のはずだが、何故ここにいる!さすがに、ミミはいないか。ミミが今まで俺に怒った事はない。ただその反面、怒る時どうなるか不明なのが逆に怖い。
「まだ営業中のはずだが、何故ここにいるんだ?」
「うふふふふ、これはミミが開発した魔道具で使用者の精神を一部だけコピー?して使用者と同じ容姿になるって説明されたけど、良く分からないわ。ドロシーなら理解出来てるんじゃない?魔法使いだし」
「えっ!えぇ、ちゃんと分かってるわよ」
つまり、○ーマンに出てくるコー○ーロボットみたいなものか。下手すれば、遺物並の魔道具じゃないか。さすがは、魔法方面で天才を総嘗めにしたミミだ。
それに比べて、ドロシーは動揺してる様だし魔法使いのくせに理解出来てないな。
「つまりは、レイラとドロシーの偽物ということか。なら、本物は下で働いてるなら良しとしとこう。それじゃぁ、俺は休むから」
「「逃がさないわよ」」
ガシッと両肩を捕まれたカズトは本物のところへ連行された。何気に力強く引き摺られる様に抵抗出来ず連れて行かれ何故か厨房の片隅で正座をさせられている。
少しでも正座を崩しちゃうとレイラとドロシーの視線が痛く突き刺さる。何でこうなったんだ?
閉店時間になり、俺の目の前にレイラとドロシーがパイプ椅子に座ってこちらを睨み付けてる。うぅ~、怖すぎなんですけど………まともに顔が見れない。
「ふぅ~、それじゃぁ遊んでいないとカズトは言う訳ね」
「はい!ワイヴァーン討伐と犯人捕獲した後は、冒険者の労いを含めた宴会をやっただけです」
カズトの説明に二人は腕を組み人差し指をトントン拍子で腕を軽く叩きながら考えている。
この待ってる時間が妙に長く感じ、カズトは冷や汗を掻く。無罪か有罪かどちらになるのか、カズトの運命はいかに?
「レイラ裁判長」
「何だね、ドロシー裁判員」
「判決は決まりましたか?」
「………それでは、同時に言いますか」
レイラとドロシーの二人はお互い顔を見詰め「「いっせぇぇぇのせ」」で無実か有罪かハイテンションで答える。カズトとしてはその答えが超怖い。
「「………有罪」」
ガーン!やはり、有罪だったか。有罪になってしまったもんはしょうがない。むしろ、怖いのはこの後だ。どんな罰が待ってるのか想像したくない。
「コンナコトデオコルナンテ、ヒトハオカシイ」
おっ!スゥが俺の弁護をやってくれるのか。出会って昨日だが嬉しいのか何か瞳から溢れてやがる。人じゃないけど、嬉しいもんは嬉しい。
「クイモノヲクレルノハセイギ」
うん、分かってはいたけどさ………俺がスゥに餌付けしてる風に見えるけどさ………理由はどうであれ、見方になってくれる事は素直に嬉しい。
「スゥちゃん、お菓子をあげるからこっちおいで」
レイラがスゥの目の前にビスケットを掲げた。そんな物でスゥが俺を裏切るはずはない。ないと思いたい。
スゥは俺とレイラの顔を向後に見渡すと…………スゥ~っとスゥがレイラのビスケットに手を伸ばし食べた。実に美味しそうに食べてる。
「タベモノヲクレルノハセイギ」
す、スゥゥゥ~~!唯一の望みが………いや、まだこっちにはミミがいる。お願いします、ミミ先生。
「………カズトは………無罪放免」
「そ、その理由をお聞かせになられても?」
ミミ相手だとレイラとドロシーはビクビクとびくついてる。怒らせた時のトラウマが蘇ってるに違いない。
スゥは退屈になったのか寝てる。
「ワイヴァーン討伐後………ただ冒険者を労っただけ………遊んでない」
「で、でも………それならもっと早く帰るはずです」
その言葉を待っていたと言わんばかりにミミがドヤ顔をする。
普段クールな怠惰キャラなミミがドヤ顔するなど前代未聞だ。カズトを含めここにいるメンバーは初めてその光景を目の当たりにした。
「何か失礼な事を言われた気が………しましたがまぁ良いです。カズトが遊んだら朝帰りになります」
ちょっとミミさん!俺、何時朝帰りしたよ?ていうか、朝帰りって言葉良く知っているね。あっ!そうか、俺の記憶をまた覗いたのね。
「「朝帰り!」」
レイラとドロシーが朝帰りという言葉に過剰反応し、こちらに凄まじい勢いで詰め寄る。
アギドでは、朝帰りなんて一度もやった事ないはずなんだけど?ミミ先生、戦況は悪化してるような気がするんですけど、気のせいですかな?
「ふぁ~、眠っ………スゥスゥ」
時計は夜10時頃を指している。
ちょっ!ミミ先生!椅子の上で器用に座りながら眠ってしまっている。これはちょっとやそっとじゃ起きないぞ。
ミミが睡魔に襲われまさかの脱落で、俺は朝帰りという言葉の説明をかれこれ三時間は繰り返すはめになってしまった。




