SS6-14、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜ウナギ〜
「負けたのじゃ」
「ふぅ勝ちました」
初めてプレイしたオセロだが、蓋を開けて見ればライラの圧勝でアリスが取れたのは四隅の4つのみという結果となった。
「しかし、何故なのじゃ。お主、本当に初めてなのか?」
「えぇ初めてです。ですが、どうやったら勝つのか?ルールを聞いてあらかた理解致しました」
これは如何に相手の打つ場所を狭まれるかが肝になる。そうすれば、こちらの手の平の上へ踊る事と同義となる。
「お待たせ致しました。お作りするのに少々時間が掛かるそうで、それで宜しければお待ち致すそうです」
「それで構わぬ。空腹も調味料の内だ」
「畏まりました。そのようにお伝えして参ります」
バタンと再び、シャルは食堂へと向かって行った。
「もう一回勝負じゃ」
「えぇ何回でも迎え撃つとしましょう」
ライラとアリスがオセロという名の真剣勝負をしてる頃、食堂は大忙しであった。
夕飯の時間帯と近くの村で祭りがあったらしく、その帰りに寄ったお客様と合わさって、ほぼ満員電車状態だ。
店内に入れないお客様は、弁当を買って行く。レストラン”カズト“がオープンする前は弁当という概念はなかった。
あっても屋台くらいだろう。弁当箱に複数の料理を詰め込むという発想がなかった。
「すみません。お部屋までお願い致します」
「はいよ」
それにルームサービスも何件か入って来ている。食堂と部屋を行き来してる影響で少し人手が足りない状況だ。
「獅子之助、少しここを任せて良いか?」
「任せろ。ミミもいるんだ。どうにかなる」
「済まない」
厨房の奥は消えるカズト。最近、ミミに頼んで厨房を増設してもらった。
炭火焼用のコンロだ。木炭から出る自然な炎が慣れないと、人工的な炎よりも熱く感じる。
だけど、これが良い。これから作る料理は炭火じゃないと美味しく仕上がらない。
「まさかコイツが安く仕入れられるとは」
カズトが水を張った桶から取り出したのは、ヌメヌメした感触に黒っぽいヘビみたいな身体をしたソイツ。そう、ウナギだ。
今現在の日本では高級魚として中々食べる機会は減ったが、やはり日本人としてウナギを食べたいと思うのは必須。日本に似た文化を持つ鬼人族の国、鬼国シェールの姫様であるアリスなら気に入ると思う。
「ほら暴れるな」
トンっ
まな板にウナギを固定するため、ウナギの目の下の顎に目打ちを打つ。一般家庭なら千枚通しを使う事もある。
固定したらウナギ専用包丁、ウナギ包丁で背開きにする。包丁の先端で内蔵と中骨を除去する。
「うん、キレイな身だ」
日本でなら最高級品になるに違いない。肉厚で脂が乗ってそうだ。焼いてないのにヨダレが垂れそうになる。
頭を切り落とし、半分に切り分けてから串打ちをする。串打ちするにも職人業があり、諺みたいな言葉がウナギ職人にある。
串打ち3年、裂き8年、焼き一生とその技術を身に付けるのに必要とされる日数を表した言葉だ。
だから、まだまだ本場のウナギ職人には遠く及ばないが、レストラン”カズト“のお客様を喜ばせるには充分な技量をもってる積りだ。
「さてと蒸すか」
背開きの場合、背側は身が腹側と比べ硬い。そこで、ふっくらとさせるために、蒸すという工程が必要なのだ。
蒸してる間にタレを用意する。
まだまだ付け足してから年数が足りてないため、老舗のウナギ屋と比べるとコクや香りが弱いが、これはこれで美味しい。
ウナギのタレの作り方は、日本酒と味醂を煮詰めアルコールを飛ばす。この際に焼いたウナギの骨と頭を一緒に入れる。焼きが足らないと、生臭くて不味くなるので注意。
アルコールが飛んだら、ザラメと濃口醤油を入れ溶かす。アクを取りながら煮込み、いくらかトロッとトロミが出て来たら火を消して冷ましたら出来上がり。
「もう蒸し終わったか」
透き通ったようなウナギの身が白く色が代わった。これだけでも美味しそうだが、タレに浸け焼く事で更にカリっフワっと仕上がる。
「よし焼くぞ」
一番難しい焼き。タレに浸け焼き、またタレに浸け焼く事を繰り返す。程よい焼き加減を見分けるのが簡単そうで難しい。
それと炭火のため煙がモクモクと昇ってる。何も対策してないと厨房だけではなく食堂にも煙が行ってしまうが、強力な換気扇が設置してある。
煙と共にウナギの焼く匂いが外へ溢れ出る。この匂いが目印となり、お客様の食欲に刺激させ余計に呼び寄せ、ウナギの注文が集中するのは仕方無い事だ。




