SS6-12、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜イカの塩辛〜
姫様に勧められるままイカの塩辛を食べたら世界がかわった。口の中で蕩け、一緒に日本酒を飲むと旨さは倍増された。
漁師に嫌われる海の怪物が、こんなに美味いとは知らなかった。これは酒好きには堪らないだろう。
「シャル、良い飲みっぷりだのぉ」
「恐れ入ります。これは酒の肴に合いますね」
姫様に勧められなかったら一生イカの塩辛は食べなかった。これは作り方をカズトに教わり、ぜひ自国でも食べたいものだ。
「私も頂いても?」
「ライラ、そちも食べてみろ」
パクっとイカの塩辛を一口放り込み、その後日本酒を注ぎ込んだ。イカの塩辛単体では生臭く人を選ぶが、日本酒と一緒だとどうだろう。
生臭さは中和され、その代わりにコクのある味わいに早変わりする。これは酒が進む。酒を飲めと言われてるような料理だ。
「ライラも良い飲みっぷりだのぉ」
「アリスも良い飲みっぷりですよ」
「ゴクッぷはぁ。これで酒が不味いと言うヤツは妾が叩き出してやるところよのぉ」
「仰有る通りで」
温泉に入りながらのお酒とイカの塩辛。何て贅沢なのだろうか。王城ならまず味わえ無い贅沢だ。
王城にも風呂はあるが、毎日は入れず週に一回か二回程度だ。ここなら毎日入れる故に、お酒が飲める。
「温泉には美肌効果があるらしいです」
な、なんと!毎日入れるだけじゃなく、そんな効果があるとは知らなかった。
あぁー、一週間後に3日間だけとは物足りない。毎日のように入りたい。制限されて初めて気付いた。ここが物凄く恋しい事に。
「それは初めて知ったぞ。何故、教えてくれなんだ?」
「き、聞かれませんでしたので」
アリスも知らなかったらしい。
「よし、これから毎日湯浴みをするぞぇ」
「姫様、ここに泊まってから毎日のように入られてますが?」
「な、ななななな何の事!」
温泉に浸かってるからか、余計にアリスの肌が赤く染まってるように見える。
よっぽど恥ずかしいのか?口元までお湯に浸かり、ブクブクと泡を立てている。口が裂けても言えないが、お持ち帰りしたい程に可愛い。
「何時も一緒にいるのです。知っていて当たり前ではないですか?」
「ならば、話さねければ良かろう。一日数回入ってる事がバレてしまった訳でないか!」
「いえ、姫様毎日入ってる事がバレただけで、毎日数回入った事は言っていませんよ?」
「ふにゃ?」
シャルの言葉が頭に入ってこず首を傾げるアリス。
数秒後、やっと意味を理解したアリスは頭を沸騰させ、狼型の魔物みたく甲高い遠吠えをした。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁ」
「アリス前見えています」
「妾は、もう出る」
「姫様、まだまだ入ったばかりではないですか?」
シャルに掴まれ為す術もなく再び湯船に戻された。流石はアリスの鍛錬を指導してるだけはある。
ほんの少し肩を掴んだだけで湯船に逆戻りとなった。何も鍛錬していない者から見ると、ただ肩を掴まれただけに見える。
だが、その数秒の攻防の中には十数年分の鍛錬の域が垣間見えた。ワタシがシャルに負ける訳だ。あの域に達するには、どれだけの年数が必要になるのだろう?
ワタシには皆目検討出来ない。
「うぅぅぅぅ」
「唸ってもダメです」
「アリス、もう少しだけでも入っていられませんか?こんな素晴らしい温泉なのだから」
「ライラがそう言うのなら、もう少しだけ」
何か妹が出来た気分だ。年齢的には、そんなに離れてないはずだが、幼児退行してるように見受けられ言ったら悪いが本当にお持ち帰りしたい気もちが強くなる。
「では、皆様ごゆっくりと寛いで下さいませ。私は、仕事が残っていらっしゃいますので」
「姫様!私も手伝います」
「却下。あなたはお客様です。お客様に仕事を頼める店だと広まったらどうするのですか?」
「そ、それは……………」
「まぁ仕事を、どうしてもしたいのであれば、アリス様のお相手をしてさしあげなさい。それとも嫌ですか?」
嫌と言える訳がない。嫌と言ったら不敬なる以前にライラは、アリスの事を友以上に好きになってしまってる。
この気持ちは、お姉様に抱いている気持ちと似ているが、何か違う気がする。上手く言葉に言い表せないが似て非なるものだと心の奥底から訴えてくる。
まぁ今は分からずとも時間を掛ければ、いずれ分かるだろう。
「嫌じゃないです」
そう答えるのが精一杯で、レイラは満足した顔で温泉を出て行った。




