SS6-11、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ〜温泉と冷酒〜
やはり運動の後の温泉は格別だ。王城でもたまに浸かっていたが、ここのは格別に気持ちいい。体が蕩けてしまうように感じる。
「ふはぁー、気持ちいい」
「運動の後の温泉は格別じゃな」
数時間ランニングマシーンの上で走っただけで汗を掻いた。
王城での訓練でもここまで汗を掻いた事は滅多にない。久々に運動らしい運動をした気分だ。実に清々しい。
「冷酒はいかがですか?」
「んっ?こ、これは姫様」
「ライラ、ここでは無礼講ですよ」
「しかし、姫様」
いくら勇者カズトの下へ嫁ぎ王族じゃなくなっても元上司の手前、様付けしてしまう。
こればかりは昔からの習慣として中々直せない。
「はぁ、仕方ないですね。さっさ、冷酒を注ぎます」
トプトプ
「おっとと、姫様ありがとうございます」
ゴクゴク、くぅーこのために生きてる感じがして堪らない。
「それはレイシュか!」
「はい、アリス様もどうぞ」
トプトプ
アリスのお猪口にも冷酒が注がれる。
食文化が日本に近い鬼国シェール、そこに住む鬼人族はホップから造られる麦酒よりも米から造られる日本酒(冷酒)が好きなのである。
「くぅー、やはり温泉にはレイシュが一番なのじゃ」
「姫様、飲み過ぎは行けませんよ」
「良いじゃないか。ほれほれ、シャルもレイシュを飲むと良いぞ」
「いえ、私には姫様の護衛がありますので」
「そうか?」
そうは口で言うが本当は飲みたさそうなようでチラッチラッと冷酒を飲むアリスを盗み見ている。
ゴクン
「ぷはぁー、運動の後に温泉。温泉の入りながらレイシュを飲む。なんとも贅沢じゃのぉ」
「アリス、このお酒美味しい」
「そうじゃろぉそうじゃろぉ。これはエールとは違い、お米という穀物で作るのじゃ。妾の国でも作ってはおるが、ここまで美味なのは出来まい」
ここでの冷酒を飲むと自国の酒は飲めなくなる。自国へ帰る際に醤油を渡して貰う約束をしているが、この冷酒も持って帰ろうか。
「オツマミもご用意してあります」
「おぉ流石じゃ」
「これは何というオツマミですか?」
「イカの塩辛でございます」
ぶぅぅぅぅ、ゴホゴホ
アリスとライラが冷酒を噴き出した。この世界では、イカとは別名で呼ばれ本来の名はクラーケン、Sランク魔物である。
海の魔物の中でもトップレベルに大きく、吸盤が付いた脚が10本あり漁師の船なんか軽く沈められる程に力強い。
そんな魔物を食べるなんて誰が考え付くものだろうか?
これを作ったカズト自身もクラーケンという名は知っていてもイカと呼ばれてる事は知らない。
「イカって、あのイカなのか?」
「姿は想像通りですが、大きさは想像通りじゃないですね」
「どいういう事かや?」
レイラはアイテムボックスからスルメイカを取り出した。ヌメヌメしており、レイラ自身も端を掴み直ぐにザルへ置いた。
「これがイカでございます」
「クラーケンの子供か?」
「いいえ、これで大人だそうです」
レイラもカズトに見せられた時には到底信じられなかった。
「カズトの世界━━━━勇者の世界では、これが通常なサイズだそうです。クラーケンみたいな大きさはいないそうです」
ダイオウイカという世界最大のイカでもクラーケンと比べると子供のように写る。
「カズトは美味しそうに食べてましたよ。だから、きっと大丈夫」
「ひ、姫様もしかして……………自分は苦手だからと、我々に押し付けてません?」
「そ、そそそそんな事ありません」
明らかに分かりやすく動揺しまくってる。ザルに乗ってるイカ事態がヌメヌメと苦手な人は苦手だが、カズトから見たら魔物の解体は出来るのにイカも含め魚介類が苦手な冒険者が多いと嘆いている。
「妾は挑戦してみるぞ」
「姫様!」
「シャル止めるでないぞ。シュトウもクセが強かったが、酒に合う肴であった。イカのシオカラも同様であろう」
酒盗と似てイカの塩辛も箸で掴み持つとネットリとグロテスクに見える。
だが、グロテスクに見える物程に美味な食材はたくさんある。意を決して、パクっとアリスはイカの塩辛を口に放り込み、ゴクンと冷酒を飲んだ。
「くぅー、これは美味じゃ。ほれ、食うてみぃ。好き嫌いはダメじゃぞ」
イカの塩辛が乗ってる皿を目の前に渡され、目を瞑りながらパクンと意を決してシャルは食べた。




