174食目、鎖vs死神その2
ギシギシ
「グハッ、これは効くねぇ」
時間が経つに連れ影の鎖は《死神》の身体を締め上げる。普通なら拘束するだけの技術だが、相手は魔神教会の幹部に位置する男。
それに自分を苦しめた怨みが、この程度で終わるはずがない。ギシギシと影の鎖を引っ張り最終的には引き千切れるまで締め上げる積もりだ。
ただ、何か違和感を覚える。普通なら歴戦の冒険者でも悲鳴を上げる場面だ。それなのに《死神》は悲鳴を上げない。
バキボキ
「グハッ、痛いですねぇ」
最早気絶又はことが切れてもおかしくない。なのに、まだ口が聞ける素振りをしている。
「あんたは一体何なんだ?!」
「何っておかしい質問しますねぇ。儂は《死神》ですよ」
「そんな事を聞いてるのではない」
こちらが有利のはずなのに恐怖を禁じ得ない。何かもっと大事な事を見落としているような、そんな感覚がさっきから頭の中で五月蝿く響いてる。
「早くこの鎖をほどいてくれませんかねぇ」
「黙れ、今直ぐに殺してやるから」
影の鎖をそのままに放置してサンドラは、新たな技術を発動しようとしていた。
「なっ!技術のダブル使用ですと!」
魔法なら一度に二重三重と複数魔方陣を描き複数の魔法が使用可能だが、技術はそうはいかない。
技術のダブル使用なんて体に負担が大きく成功しても失敗しても反動が使用者に反ってくる。
だけど、それは一般的な話だ。サンドラを含めた勇者は、技術のダブル以上の使用後は疲労はするが、それ以上のリスクはない。
「直接斬りさいであげるわ。雷の聖鎖ライデン【雷鎖回転刃】」
両手両足の各々の指にチェーンが歯車に噛み合うように身体中に走ってる。
バチバチとサンドラの身体中に電気が迸り、チェーンが運動を始める。
「眩しいですねぇ」
「余裕をこいでられるのも今の内よ」
「……………?!」
速い、一瞬の内に《死神》の懐に入ると、影を縛る鎖を解くと間髪入れずに【雷鎖回転刃】の蹴りを鳩尾にお見舞いした。
吹き飛んだ《死神》は、向かい側にある建物の壁に激突し止まった。壁は崩れ、その下敷きとなった。
「グハハハハッ、良いね良いですねぇ。ここまで戦えるとは実験は大成功ですかねぇ?」
「くっ?!」
本来なら真っ二つする程の切れ味を誇る【雷鎖回転刃】なのだが、それなのに吹き飛んだ事に理解出来ないでいるサンドラ。
「速いですが、軽いんですねぇ。それでは、そこら辺の魔物ならいざ知らず、儂は倒せんよ」
それに無傷に見える。だけど、まだまだ諦めない。【雷鎖回転刃】による高速ラッシュ攻撃をお見舞いさせる。
ガキガキザシュ
「うおっ!ちょっ、待って!速い、速いって」
《死神》がサンドラを挑発したのは間違いであったか。先程よりも数倍速くなってる。
ギュイィィィィィィン
「出力アップ」
【雷鎖回転刃】の回転を上げ、更に速度と切れ味が増した。
足裏の【雷鎖回転刃】がスケートやスパイクの役割をしており、地面が氷でないのに滑るように移動出来る。
「はぁぁぁぁぁぁ【雷鎖回転刃・雷刃殺】」
パキッ
「ぐおっ!儂の大鎌ちゃんがぁぁぁぁぁぁ!」
《死神》の大鎌が見事に柄を含め刃先まで細切れにされてしまった。
「よくもよくも儂の大鎌ちゃんを壊してくれたなぁぁぁぁぁぁ」
《死神》の身体中から禍々しい黒い靄が上り詰め形作る。
それはまるで阿修羅像のように腕が複数生えたかのようだ。その禍々しい腕に触れた物全て腐食が起きている。
「くっ、このままでは街に被害が広がってしまう」
「くふふふふ、逃げてるばかりでは勝てませんよぉ」
《死神》から出てる黒い靄は、いくらか伸び縮み出来るようでサンドラを捕まえようと追って来る。
伸びる距離には制限があるようで、一定の距離を離れたら追って来なくなる。
「おそらく闇魔法か?なら、光の聖鎖レイラーン【千手観音】」
サンドラの背中から糸程まで細くした鎖を編み込んだ腕が数え切れない程に生えた。名前の通りに神々しく、本当に神になったと錯覚してしまう。




