173食目、鎖vs死神
まだ実験体として生きてた頃は子供で何も出来なかったが、成長し勇者の力を十分に引き出せるだけに成長した。
そんなサンドラに、また実験体になってくれと頼んでも断れるのは必然。
「分かっていましたがねぇ。では、どれだけ成長したのか見てあげますかねぇ」
本当の死神らしく《死神》は大鎌を構えた。
「そう言っていられるのも今の内だ」
サンドラの身体から何本ものの鎖が生え《死神》に襲い掛かる。聖鎖テンペストと融合した事によりサンドラは、身体の何処からでも植物の蔓のように自由自在に生やし扱う事が出来る。
ガキンガキン
「戦闘は得意じゃないのですがねぇ」
「ウソをつけ」
高速で繰り出される鎖を大鎌一丁だけで裁き切ってる。明らかに歴戦の戦士みたく、サンドラの鎖を見切ってる。
「面倒臭いですねぇ。これでも喰らいなさい【死神の大刃】」
一瞬サンドラが攻撃を緩めた瞬間に黒々と禍々しい斬撃を《死神》が放つ。
その一方でサンドラは、鎖を何重にも重ね合わせ黒い斬撃をガードする。
普通なら触れた物を腐らせる効果を持つ【死神の大鎌】でも破壊不可効果を持つ聖鎖テンペストは腐りはしなかった。
「忌々しいですねぇ。それは元々儂の持ち物だから返して欲しいのだがねぇ」
「ウソをつけ。前の鎖の勇者から奪ったくせに良く言うわ」
聖鎖テンペストと融合した日から共に過ごして来たからサンドラには分かる。聖鎖テンペストも《死神》を憎いって事に。
前の鎖の勇者は殺された。目の前にいる《死神》に。その記憶が聖鎖テンペストから流れて来たからサンドラは知っている。
聖武器を強奪するためには、その聖武器に適応した勇者を殺すしかない。《死神》は、それを実行した。自分の実験、興味本位のために。
「おやおや聖鎖テンペストから聞いたんですか?聖武器には意思があると言われてますが、融合するとそれが顕著に出てくるのですかねぇ。これは面白い研究成果です」
「うるさい、黙れ。水の聖鎖ヒュドラ奥義【多頭の水鎖蛇龍】敵を拘束し喰らえ」
宙にボーリング玉程の水の玉が複数プカプカと出現し、その玉から龍を模した水属性の鎖が複数生え《死神》に襲い掛かる。
「これは少しヤバいですかねぇ」
いくら水の鎖を切っても意味がない。切った側から再生し一向に減らない。
時間が経つに連れ《死神》の身体中に水の鎖がまとわりつき、ほんの数分しない内に《死神》の周囲を水で覆い尽くし水球となる。
普通の水よりも十数倍に濃縮されており、完璧に覆い尽くせば最強の種族と言われる龍人族でさえ身動きが取れなくなる程だ。
「これでお仕舞いね」
時間が経つに連れ水球は徐々に圧縮、縮んで行く。普通なら溺死か圧死のどちらかか両方だろう。
だが、相手は普通ではなかった。相手は魔神教会の幹部を務める化物だ。
ゴボゴボ
(【死の吐息】)
《死神》を包んでいた水球が禍々しく黒く濁り、シャボン玉が割れるかの如く水球が破裂した。
「ゴボゴボ、死ぬかと思いました」
「な、何故脱出出来たの?!」
つい聞いてしまった。目の前に起きてる事が信じられない。本当なら最後極限まで圧縮された水球が一気に解放されたみたいに爆発する手筈であった。
どんな手段を持ってしても形を持たない水だから壊す事は出来ず、爆発で水を吹き飛ばす手段も考えられるが、あの水球の中ではまともに爆発が起こせるはずはない。
「クフフフフ、水も腐るのですよ。聖鎖テンペストは無理でもそこから離れた物質なら壊せると証明出来ましたねぇ。感謝しますよ、態々実験に付き合ってくれまして」
「まだそんな戯れ言を!」
サンドラの怒りは増すばかりだが、これで何故破れたのかが判明した。
内心でも怒り心頭になりがちになるが、ここは冷静にならないと勝てるものに勝てなくなる。
「さて、次は何を見せてくれるのですかねぇ」
「そう余裕にいられるのも今の内よ。闇の聖鎖シャドウミスト【影を縛る鎖】縛りつけなさい」
《死神》の影から黒い鎖が四方八方から出現し、《死神》の身体を縛り挙げる。
まるで今から処刑される罪人のようだ。




