SS1-53、帝国の三勇者〜アクアの試験〜
「えぇ、アクア様ですね。では、こちらへどうぞ」
「ご主人様、行って参ります」
「頑張って来るが良い。アクアなら合格間違いなしだぜ」
何故ならアクアは、元々A級の魔物であった。B級のワータイガーならどうなるか分からないが、その上位種であるウォータイガーだ。
「アクア様、こちらで試験を行って貰います」
「どんな試験なんだ?」
「オレ様と模擬戦を行って貰うよ」
受付嬢とアクアの背後から声が聞こえ振り返ると、そこには上半身裸で筋骨隆々な男が立っていた。
爪先から肘まで覆う篭手を装着しており、身長より長い大剣を片腕だけで余裕そうに持ち上げている。
アクアと比べても遜色ない程に背が高く、おそらく2m以上はあると思われる。
髪は金髪のオールバックで、上半身裸ではなくスーツを着こなしせば、何処かのIT社長に見えなくもない。
「ロマン様、この度は急な仕事を請けて貰いありがとうございます」
「良いよ良いよ。なにせ、聞くところに寄ればSランクの連れだという話じゃないか。オレ様も興味があってね」
「何処で、その話を!」
まだギルドマスターしか教えてない情報。それに数分前のやりとりだ。それを知ってるなんて、おかしい。
「クククク、ただ部屋の前を通り過ぎたら聞こえてだけだよ」
実のところ、ロマンもあの場所にいたのだ。ランバルトとリンカのやりとりを見ており、そのリンカの仲間であろう人達が受付嬢の反応からタダ者ではないと察知。
こっそりと着いて行き、そこで受付嬢がギルド長室に入って行くのを見た。こっそりと聞き耳を立てていた訳である。
「ロマン様の仰有る通りです。ロマンと模擬戦を行って貰います。ロマン様はAランク冒険者、ロマン様の判断で合否を決めて頂きます」
Aランク冒険者!ジャックと同じランク、ジャックの強さは分からないが、ご主人様よりは弱いという事か。
「アクアと言ったか?」
「はい、よろしくお願いします」
「よし、好きな武器を選べ」
「素手ではダメか?アクア、武器を使った事がない」
「東方に伝わる拳法家なる者達は、素手で戦ったという。良いぞ、オレ様も素手で戦おう」
ロマンは、大剣を地面に突き刺した。握り拳を作った後、武道家ぽく構えを取った。
Aランクらしく、構えを取っただけで威圧感がこちらまで伝わってくる。
「何時でも来い」
「では、行きます」
アクアに先手を譲ってくれた。素手では先ず近寄らないと話にならない。獣人の瞬発力を活かし、体を低く足全体をバネのようにすると、一気に駆け抜けロマンとの距離を詰めた。
「ハァァァァァ、【水鈎爪】」
ガキン
「ふんぬ」
「なにっ!」
確実に当たった。それもロマンのお腹ど真ん中に当たった。下手すればクギ刺しになり、絶対に重症になるであろう一撃だった。
だが、打ち負けたのはアクアの方であった。水を圧迫して形成された爪は、ロマンの筋肉隆々な腹に負け折れた。
「良い爪だが、オレ様の【鉄の体】には届かなかったな。来ないなら、こっちから行くぞ」
まさか効かぬとは考えもしなかった。そのため、一瞬意気消沈となり判断が遅れた。
「うおりゃぁ」
「くっ」
どうにか腕を前に出しガードするが、ギンギンと腕が痺れる。まるで鉄の棒で殴られたかのようだ。
それと多少ノックバックされるが、どうにか足の踏ん張りにより2m〜3m後退しただけだ。
「攻防一体の技術か」
「クッアハハハハ、これで吹き飛ばなかったとは、やるではないか」
普通に人間だと吹き飛ばされ腕の骨は折れていた。だが、ご主人様よりは弱い。
ここで負ければ、ご主人様の顔にドロを塗る事になる。それだけは避けなければならない。
「油断大敵ではないか?笑ってる内に腕の痺れは取れた」
「グッワハハハハ、勘違いしてるではない。これは試験であって殺し合いではない」
睨みつけられ、本能的に後退してしまう。ロマンは人間のはずなのに、何処か猛獣の独特な威圧感を放った。
まるで蛇に睨まれたカエルのようだ。額から嫌な汗が頬に伝い落ちる。
これがAランクの実力。いや、Sランクに届いてるフシが見られる。だが、勝つのはアクアだ。
「勝つのはアクアだ」
「ほぉ、オレ様の殺気を耐えるとは面白い。これは、ちと本気をだしたくなるではないか」
あれが本気だとはアクアも思っていない。こちらも獣人になったばかりで、まだどれ位が本気なのか把握しきれてない。
この戦いで自分の本気を見つければと、そうすればもっとご主人様に喜んで貰える。




