169食目、鎖、因縁を見つける
鎖の勇者サンドラの様子がおかしい事に気が付いた樹精族の女王ルルシー・ドルン陛下は、サンドラの視線を追い尋ねた。
「サンドラちゃん、どうしたの?この男を見詰めて」
「す、すみません。この男は、ワタクシの身体を弄んだ男なのです。こいつによってワタクシの身体は……………ワタクシの身体は……………」
「良いのよ。辛い記憶を思い出させて、ごめんなさいね」
ルルシー・ドルン女王陛下の胸元で泣いた後、何処かスッキリとした表情でサンドラは、目の前の【世界地図】に目を向けている。
「ルルシー様、ワタクシにあの男の討伐に行かせて貰えませんでしょうか?」
骸骨マスクの男と鎖の勇者サンドラ・ミッシェルの因縁は凡そ6年前まで遡る。
骸骨マスクの男、No13《死神》は戦闘が好きという訳ではない。どちらかというと科学者に近い。
およそ6年前にサンドラ・ミッシェルは《死神》に実験動物としてルルシー・ドルン女王陛下に拾われるまで飼われていた。
当時、《死神》がやっていた実験とは聖武器の一つである聖鎖テンペストを勇者でない者でも扱えるようにするという実験であった。
サンドラ・ミッシェルを含め実験動物である何かしらの種族の子供が各ガラス容器に1人ずつ入れられ生命維持効果のある液体に満たされいた。
1人ずつ聖鎖テンペストによる実験が行われたが、どれも失敗続きである。身体に異変が生じた者、精神が狂った者、最悪死んだ者もいる。
勇者でない者が無理矢理にでも聖武器を使用すれば、どんな事が起こるか分からない。
数年続いた後に《死神》は、この実験を終了とし研究チームは解散しようとした。
残された実験動物は破棄されたはずだったが、サンドラ・ミッシェルだけは生き残り唯一の成功例となった。
それもそのはず、最初は自覚は無かったもののサンドラ・ミッシェルは召喚された勇者であったのだ。この事実は、《死神》は知らない。
ただし、生き残った代償は高くついた。元々人間だったサンドラ・ミッシェルの身体は樹精族へと変貌を遂げていた。
それだけならまだ良かったかもしれない。なんと、聖鎖テンペストと身体が融合していたのである。
今現在では、身体のあらゆる所から聖鎖テンペストを出し入れが出来、自由自在に扱えるが、当初は暴走を起こし苦労した。
だから、自分をこんな身体にした《死神》を、この手で必ず殺すと決め今まで生きてきた。
だから、今日この瞬間に《死神》を目にする事が出来て内心から殺気が抑えられないでいる。
「サンドラちゃんの気持ちは痛い程に良く分かったわ。本当なら行って欲しくないのだけれど、無茶はしないでちょうだい。皆さんもそれで良いわよね」
ルルシー女王陛下は、一週見て回りながらこの場にいる全員に説く。
「有り難き幸せ。このサンドラ、必ず勝利を捧げます」
「サンドラちゃん、いってらしゃい。必ず帰って来るのよ」
「はっ!行って参ります」
闘技場のVIPルームから颯爽と出て行くサンドラ。いくら勇者であっても魔神教会の幹部相手では苦戦を強いられるのは目に見えてる。
だが、質量でこちらより上間ってる以上、分けるしかない。
「幹部は、あの三人だけなの?」
「いえ、全員で6人確認されました。4人目は、魔法大国マーリンで最も高い場所、不滅の時計塔です」
不滅の時計塔とは、魔法大国マーリンで最も高いところであり最も巨大な魔道具である。
どんな原理で動いてるのか今だに判明しておらず、魔道具であるからには魔力の供給が絶対に不可欠なのだが、どうやって供給されてるのかも不明。永遠的に供給され続けている。
それに加え、名前にある通りに〝不滅〟なのだ。破壊されようとも自動修復機能にて修復され、もし魔法大国マーリンが破滅しようとも不滅の時計塔は残ると言われてる。
そんな不滅の時計塔の時間を知らせる大鐘が取り付けられてるフロアにNo17《星》が居座ってる。
「ムフフフフ、ここは眺めが良いな。ここなら誰にも邪魔されずに楽しい仕事が出来そうだ」
ゴトン
《星》は、自らの技術の副作用として遠距離射撃銃を作りセットした。
《星》の能力は、特に銃を作らなくても様々な特性を持たせた銃弾を発射する銃口を様々な場所にセットして発射する技術だ。
その過程で銃弾も作れる。ただイメージ力が必要で、何かしら形を持たせた方がイメージし易い。だから、態々銃を作っている。
「ムフフフフ、さぁ楽しい楽しい戦争の始まりですよ」
遠距離射撃銃に取り付けられてる照準器を覗きながら呟いた。




