166食目、料理大会イン魔法大国マーリンその3
時間は進み、それぞれ食材の処理が終わり焼きや煮込みに入る。
双眼鏡で覗くと、ニーニエはやはり大鍋を用意しスパイスを次から次へと投入している。
そこに適度に切った肉や野菜を入れ煮込んでいく。なにやらスパイシーなスープを作ってるようだ。
その一方、シャルロットは豪快に切り分けた肉を薄く刺身のように切っている。それを身長ほどある鉄製の串に重ね刺していく。
串の先っぽまで刺すと、何やらコンロらしき道具にセットした。下から炎が吹き出し串が回転する。
『あれはケバブだな』
普通は縦型で横から火を当てられながら回転して焼いていくものだが、これは横型だ。炎に当てられ肉汁が炎の中に落ちる。
肉の旨味である肉汁が勿体無い気がしてならない。肉汁を閉じ込められれば、更に美味しく出来上がっただろうに。本当に勿体無い。
『カズト、ケラッサを知っておるのか?』
『似たような料理は私の世界でもあります。どんな料理になるか楽しみです』
他の選手の様子も拝見する。
俺の嫁であるレイラは、フライパンで米を炒めてるようで炒飯かピラフだろうか?解説席からでは判断がつかない。
今のところ、順調な様子でカズトはホッと一安心する。上手くいってない場合は、今の時点で暗黒物質と言っても過言でない程の世界に存在してはいけない何かになっている。
今の時点で、それになってないとなると一応食べられる物質にはなっているだろう。美味しいか不味いかは別として。
今度はフゥのキッチンを覗くと、どうやらスープを作ってるようだ。大きな寸胴鍋に様々な食材を投入している。
野菜はもちろん、魚から肉までいる。だけど、スープの色がこの世とは思えない程に黒ずんでおり、湯気が禍々しい色をしている。
匂いは辛うじて観客席には届いてないらしく、誰も噎せる様子はない。
だけど、ステージ内には充満してもおかしくないのだが、何故だか選手誰も具合を悪くなる様子はない。
『あれは何を作ってるかのぉ?』
『スープのようですが、ここからでは分かりませんね』
うん、分かりたくもない。カズトの料理人人生で、あんな色合いをした料理は存在しない。
『リリシー選手は、何と大量の果物を絞り出したぁぁぁぁ』
主に柑橘類を多く絞ってる。それも樹精族の固有技術である【植物操作】による植物の弦を大量に操作し、一気に柑橘類の絞り汁を作っていく。
『あれは飲み物かのぉ』
『いや、あれは……………』
底が深い大鍋に入れて煮詰めてる様子だ。ジュースならそもそも煮詰める必要はなく、ただ絞るだけで良い。
柑橘類の絞り汁の他に何やら入れている。おそらく味を整えるために砂糖と解説席の距離では、もう一種類白い粉が何か分からない。
数分煮詰めた後、火を止め容器に注ぎ冷蔵庫へ入れた。おそらくだが、冷蔵庫に入れた瞬間にカズトはそれが何か理解した。
『おそらくですが、リリシー選手は甘味を作ってるのでしょう』
『甘味?』
『あれは甘味を作ってるのか!』
カズトの想像通りだとすると、リリシーが作ってる物は、この世界の者からすると衝撃を受ける事だろう。
だとすると、この世界にもアレが存在する事になる。カズトなら【異世界通販】で簡単に手に入るが、魔法や技術に特化したこの世界でアレを試す変わり者は中々いないと思う。
『私の想像通りの物ならおそらくは』
最後にタマモは、顔が強面な魚をまな板の上に置き捌いていく。
丁寧に鱗取りをし、慣れた手つきで包丁を腹に突き刺し横にスライドさせ切る。そして、内臓や血を取り出し、きれいに洗う。
捌いた魚に合わせた巨大な鍋がコンロ全体に鎮座している。コンロは3口で全て火を点火する積もりだ。
鍋には、酒や魚醤に砂糖等の調味料を計りながら入れて、そこに内臓を取り出した強面な魚を入れ、点火した。
『タマモ選手は、丁寧に魚を捌いていましたね』
『あれは鬼面魚だな。顔は怖いが身は美味である。妾も好きだ』
『解説ありがとうございます。私は初めて見ましたが、シャルラ女王陛下は料理に詳しいですね』
『巨人族は、人間からしたら野蛮と思われがちだがな。料理とは自然の恵みと命を貰う行為だ。それを大切にしなければならんと妾は思っておる』
『感動的な話ありがとうございました』
もうそろそろ終盤、直に盛り付けが始まってもおかしくない時間帯だ。




