165食目、料理大会イン魔法大国マーリンその2
『どうやら選手全員が材料を運び終えたようです』
俺は双眼鏡を使い、それぞれのキッチンを見ていた。決闘とは違い、遠目から見ても何をやってるのか分かり難い。
観客にも暇を持て余してる者が現れ始めている。珍しい他国の王族を目にする事が出来ても不満が募ってしまう。
そこでカズトは、とある策を講じた。それは〝移動販売〟だ。観客が、態々立ち歩かなくても販売員が出歩いて食べ物と飲み物を販売する。
それに本来から品物をカートやトレーに乗せて販売するものだが、ここは異世界アグドだ。
異世界風に時間経過がないアイテムバックというアイテムボックスのアイテム版を使用している。
これだとアイテムボックスを持ってない人でも出来る。販売員は、魔法大国マーリンの住人の中から女性から厳選し、ユニフォームはレストラン〝カズト〟のチャイナドレスに似た衣装を着用してもらっている。
魔法大国マーリンぽく多少露出が激しいが、販売員になった女性達からは恥ずかしがると思いきや意外と好評であった。
売る食べ物・飲み物は、定番としてホットドッグ、ポップコーン(塩、キャラメル、チョコ)、オレンジジュース、コーラ、生ビールが販売される。
VIPルームにいる王族らも、これらを食し好評だ。王族らも食べた食べ物・飲み込みとして触れ込みし、大いに売れている。
『さてさて、各自のキッチンを見てみましょう。先ずはニーニエ選手から見てみましょう。ニーニエ選手は、マーリン女王陛下の娘であります。ニーニエ選手は、何やら大きな袋を取り出しました。その中には………………おっとぉぉぉぉぉ、たくさんの香辛料が入ってるぞ。データによりますと、ニーニエ選手は香辛料研究の第一人者であります。ということは、いきなり必殺技の炸裂かぁぁぁぁぁ』
『我が娘ニーニエは、普段から香辛料を使った料理を振る舞って来るのだ。それはもぅ、絶品で絶品で頬が蕩ける位なのだ』
『マーリン女王陛下ありがとうございます』
「か、母様恥ずかしいです」
ニーニエが一旦調理の手を止め俯いている。こんな大勢の観客がいる場で、ベタ誉めなのだから相当恥ずかしいのだろう。
それにプレッシャーでも掛かってしまったようで調理のスピードが落ちてる風に見える。
「このパンに挟まってるのは、何の肉かしら?」
「食感で肉なのは分かるが、何の肉か分からん」
「この赤いソースと粒々なソースが合う」
解説席の方では、参加者以外の王族が勢揃いで、観客に販売してるホットドッグを食してる。
マイクを通さないと、VIPルームの声は聞こえないので解説席後ろの声は観客には聞こえない。
『このホットドッグとやら美味しいのぉ。これには、コーラとやらが良く合う。このシュワシュワが妾は気に入った』
『マーリン女王陛下、マイクで話すと観客にも聞こえてしまいますよ?』
『剣の勇者よ、そう固い事を言うな。これらは剣の勇者が用意した物だぞ。それを宣伝する事は、そなたにも利益があると思うが?』
『はっ、その通りでございます』
そう言われてはNOとは言えない。
マーリン女王の言う通りに宣伝になってるようで、マイクによって観客にも聞こえてるお陰か?売上が増加する一方で、商品の消耗が激しい。
もうそろそろ補充しないと、販売員のアイテムボックス内の食べ物・飲み物が失くなる。
「ボーロ、こちら剣の勇者カズト。もうそろそろアイテムボックス内の飲食物が失くなりそうだ。補充を頼む」
『了解です』
マイクではなく、無線機で連絡を取り合った。マイクと無線機に双眼鏡もカズトが【異世界通販】により買い揃えた。
そこそこ良い値がしたが、何時かは欲しいと思っていた道具だ。こちらにも似たような魔道具はあるにはあるらしいが、どれも高価でしかも大き過ぎて一人で使えるような代物ではない。
『他の選手も見てみましょう。シャルロット選手は豪快だぁぁぁぁぁぁ。牛を丸々一頭に包丁を入れてるぞぉぉぉぉぉ』
包丁といっても牛刀並みに大きい包丁で、今現在のシャルロットよりも大きい。
その包丁を軽々と片手で持ち上げ、双眼鏡でも視認難いが的確に部位を別けて解体している。
知識がないと出来ない芸当で、いくらか時間を掛ければカズトにも出来るが、シャルロット程に豪快に早くは出来ないだろう。それも一国の姫が出来る芸当ではない。
見事な解体をやり終えたシャルロットに自然と拍手が沸き起こる。
『流石は妾の娘だ。どうだ、妾の娘は』
『素晴らしいですね。相当な知識だと思います』
『シャルロットよ、聞いたか?カズトに褒められたのよ。これで優勝しなきゃ…………分かってますよね?』
当のシャルロットは、羞恥心と恐怖心でガタガタと腕から肩まで震えている。




