SS9-3、ミスティーナの修行~休憩中~
砂鉄で作成した弾丸と本物の銃弾、どっちが勝つかは誰が見ても明らかだ。
《世界》の銃弾が砂鉄を霧散させ、ミスティーナに風穴を開けようと迫って来る。
「全弾命中させましたね」
ニヤリとミスティーナが微笑んだ。砂鉄の弾丸は本来使う魔法の前座、前準備みたいなものだ。
捌き切れずに何発かは《世界》に命中した方が良かったが、そう中々目論見通りには行かない。
「これを防げます?磁気魔法【反作用】」
砂鉄の弾丸を撃ち破った銃弾は、急停止し向きを変え銃弾を発射した本人である《世界》に向かっていく。
「何とも面妖な事をする」
それをお前が言うな!ワタシの魔法よりも世界を作ってしまう《世界》の方が面妖だとミスティーナは内心で思ってる。
「なら、ワタクシはその倍は撃って差し上げましょう。【一秒を百秒に加速】」
いやいや、倍って程じゃない。この空間をほぼ埋めつくされそうな程に銃弾が飛び交う。
逃げ場はない。磁気を帯びた銃弾は、数の暴力によって破壊され次の魔法を放とうにも時間が足りない。
「グギャァァァァァァ」
塵も残らぬ程に風穴を開けられるが数秒しない内に死んだ事実だけを無かった事にされた。
だけど、珍しく体内に直接銃弾を入れられる死に方はしなかった。
「く、悔しい。行けると思ってたのに」
「こんな稚拙な業でワタクシに勝てるなんで五万年早い(焦ったぁぁぁぁぁ)」
まさか銃弾を跳ね返すとは思いもしなかった。この世界にて銃弾よりも速い魔法は存在しない。
一応、魔法の中で光魔法が一番速いとされるが個人が扱えるような代物ではない。
その次に速いとされるのが雷魔法だが、発動までに時間が掛かるし、狙いが定まり難いのが欠点。
武器に纏わせ切れ味向上と切り付けた時に麻痺を付与させる効果を付与されるのが一般的。
「休憩にしましょう」
「ま、まだ殺れます」
「この中では時間の流れが遅く、死に戻りが出来るとしても精神的にはそうはいかないものよ」
肉体的に大丈夫でも精神的に疲弊していては、十分なパフォーマンスを披露出来ない。
死んで生き返るという行為は、精神的にグッと来るものがある。気付かない内に貯めて置くと、肉体的に大丈夫でも身動きが取れない時がある。
「まだまだ時間はあるのだから」
「先代が言うのだから間違いないわね」
まだ殺りたい気持ちはあるが、神として畏敬と尊敬の念を抱いている《世界》に言われては従う他にない。
「これは勇者の世界で買って来た菓子よ」
「勇者の世界の菓子?」
黒くて真ん丸な形をしているソレは、何故か知らないが本能的に口へ放り込んでしまいたいと訴え掛けてくる。
「遠慮する事はない。食べても良いよ」
ゴクン
「では、頂きます」
ポイっと一粒、口の中に放り込んだ。その瞬間、今まで味わった事のない甘味が口の中に広がっていく。
舌の上で転がすと、溶けていき自然と笑顔になってしまう。最後に硬い豆ぽい物体が残り、それが適度に硬く甘い後には良いアクセントになる。
「それはアーモンドチョコレートという菓子らしい。勇者の世界では女の子に人気な菓子の1つだそうだ」
「美味しい。こんな甘いもの初めて」
「こんなの序の口よ。勇者の世界では当たり前みたいなのよね」
そう勇者の世界へ初めて訪れた時は驚きの連続であった。
衣食住の違いや魔法と技術がない事実に最初は、流石の森精族の先代といっても茫然自失となってしまった。
魔法の扱いに長けてる森精族にとって魔法が使えない事は存亡に関わる事だ。
「勇者の世界で魔法は使えないの?!」
ミスティーナは心底驚いた。自分が魔法を使えなかったらと想像すると身震いした。
「いや、ワタクシ達は魔法は使える。ただ、あちらの人間は魔法を使えないというだけだ」
「それなら、どうやって生きて行くの?」
「魔法の代わりに科学という力で発展している。ころもあちらの科学の結晶とワタクシの魔法を合わせて作ったものだからな」
二丁拳銃を指差して暴露する。
この修行を始めるまで《世界》の武器である二丁拳銃を初めて見たのは、そういう事か。
「慣れてしまえば、科学も良いものだぞ。あちらでワタクシ、会社を立ち上げて今も順調だな」
「会社?」
「ギルドみたいなものだな。美人社長として有名なのだぞ」
森精族は大抵美形揃いだから美人社長というのも頷ける。




