SS9-1、ミスティーナの修行~《世界》の正体~
《正義》と一緒に着いて行きたかったが、魔神教会のボスという立場の教祖カノンの命令では仕方がない。
ワタシの教育係として何名された今ワタシの目の前を歩いてる《世界》と呼ばれていた女性もただ者ではない。
盗賊団の頭をやっていただけに一目で相手のおおよその力量が解ってしまう。《世界》は、教祖カノンとはまた違う強者だ。
なんていうか、力の底が見えて来ない。
「ここなら良いでしょう」
「ここで殺るの?」
「そこで見てなさい【疑似世界】発動」
《世界》が技術を使用した途端、目が開けられない程に数秒光輝いた。目が開けた瞬間、ミスティーナは驚愕を禁じえなかった。
今までいた薄暗い場所とは異なり、今いるここは真っ白な空間で自分が立っているのか?浮かんでいるのか?分からない不思議な空間にいた。
「ここはワタクシが作った世界。外から完全に隔離されているわ。そして、時間もココでならゆっくりと流れてます。ココの1日過ごしても外では1秒しか経っていないのよ」
「なっ!」
世界を作るなんて、まるで神が行使する御業ではないか?!それを平然とやってのけるとは、ワタシとは全然格が違う。
間接的に教祖カノン様から力を授かった事に浮かれていた自分に恥ずかしい。
「さぁ、ココでなら思う存分に時間を気にせず貴様の修行が出来る訳ね。それと修行前にワタクシの正体を教えて置こうか」
《世界》の頬辺りがうっすらと一瞬光ったように見えた。
「うん、これで本来の姿に戻ったかしら」
「あ、あなた様は、森精族初代女王様?!」
《世界》の耳が人間の真ん丸な耳から森精族特有な尖ってる耳へと変化した。
そして、極め付けは髪の色が黒から白髪へと変化した。
「ふむ、やはりワタクシの事を知ってるのですね」
「それは当たり前です。黒森精族での王でもあるのですから」
森精族と黒森精族は元々同じ種族であった。その当時の森精族を統治していたのが、《世界》本人なのだ。
「失礼ですが、初代女王陛下は死んだはずでは?」
ミスティーナが、そう疑問に思うのも無理はない。《世界》は、初代勇者である《正義》と同様、最低で2000年前の人物なのだから。
いくら長寿で有名な森精族でも2000年は生きてられないとされる。長くても500年~600年位だろう。
「まるで幽霊でも見るような目付き。悲しいですね」
「め、滅相もありません。女王陛下に関しては遥か昔に死んだと聞かされていましたもので」
「冗談です。ワタクシが、こう生きていられるのは教祖カノン様のおかげですのよ。自己紹介も済みましたし、早速修行といきましょうか」
森精族初代女王は、黒森精族であるミスティーナにとって神に等しいお方だ。
そんな人物から教えを賜るなんて夢のようだ。どんな辛い修行でも喰らいついてみせる。
「先ずは修行を始める前に質問がある。《悪魔》の本質とは何なのか?答えてみて」
《悪魔》の本質?それは技術を見ると、自分・相手問わず改造出来る事ではないだろうか?
「それは本質の一部に過ぎないとワタクシは思うわ」
「これが一部?」
一部でも凄すぎではなかろうか!色々身体を弄れるなんてチートな技術なはずだ。
それを一部と言われ動揺しない方が無理というもの。《悪魔》の本質を全て理解出来たなら、どれだけ強くなれるのだろうか?
「ワタクシの【疑似世界】も《世界》の一部にしか過ぎないのよ」
この神に等しいと思われる技術が《世界》にとっては一部というのか。
スケールのデカさにミスティーナの両腕が震える。
「ワタクシの事なんか、どうでも良いのよ。先ずは、基本的な能力向上をさせるためにワタクシと模擬戦をやってもらいます」
「女王陛下とですか?」
「この世界ではマムと呼びなさい」
ビシッと《世界》の手元には鞭が握られおり、ノリノリで鞭を打ち鳴らす。
「イエス、マム」
「それで良いのよ」
つい敬礼をしてしまうミスティーナ。どういう意味があるのか理解出来ないが、やらないといけない気がした。
そして、《世界》によるミスティーナの肉体改造という名の特訓が開始されようとしていた。




