163食目、料理大会受付
業務用でバニラが4、チョコレートが5が売れた。カズトの故郷である地球では1つにつき、およそ銀貨3枚程度だが、こちらでは俺しか入手出来ない事を考慮して金貨3枚とした。そこにディンジャーもつけてある。
これでも大分安くしたと思っている。おそらく普通に貴族へ売れば、この10倍~100倍は値がつり上がるはずだと確信している。
だけど、貴族には売りはしない。何故なら貴族のいざござに巻き込まれるのは勘弁だからだ。
「あっそうだ。1日に1~2掬い程度で抑えた方が良いですよ。甘いですから食べ過ぎると肥りますよ」
ビクッ
俺の言葉に女性一同全員肩を揺らした。やはり、肥るという言葉は女性にとって禁句のようだ。
数秒間、間を開けてから「食べ過ぎなければ大丈夫です」と、付け加えた。その言葉に、女性一同はホッと胸を撫で下ろす。
安心したところで、この場で全員俺の言い値で払ってくれた。
「金貨27枚、ちょうどあるな」
全員、王族だから後払いにでも良いと考えていたが、アイテムボックスに自分で使う分は入れてるようで、そこから出したようだ。
因みに幾ら入ってるのか王妃様に聞いた事がある。返って来た返事は、「覚えてない」だった。
「では、解散しましょう。明日もまた勇者様が美味しい物を出してくれるわ」
「そうじゃな。カズちゃん、楽しみにしておるぞ」
「カズト兄さん、後でレシピを教えてください。言い値で払います」
「リリシー、ズルいぞ」
「タマモさんは料理出来るのですか?」
つい、反射的に聞いてしまった。タマモがギョロリとカズトを睨み付ける。
女性に年齢を聞くのは、どの世界でも禁句だが料理を出来ない、出来るのか?と質問したり言ったりするのも禁句だろう。
もし、言ったりしたら最悪の場合が起こり得る。
「そうか、タマモの料理をカズちゃんは食べたいのか?そうかそうか、カズちゃんのために作るから楽しみにして欲しいのよ」
口元は笑ってるが目元が笑っていない。口は災いの元と良く言うが正にその通りである。
もう吐き出した言葉は飲み込めない。おそらく今直ぐにとはいかないが、近い将来にタマモが作った料理を食べる事になる。
「私も"剣の勇者"様のために料理を作りたいです」
「リリシーもカズト兄さんのために作ります」
フゥとリリシーもカズトに自分の料理を振る舞おうと志願した。
カズトは、ロリコンではけしてないが俺のために料理を作ってくれるなんて普通に二人が可愛いと感慨深く思ってしまう。
「ふむ、良かろう。今日は、もう夜深くなるゆえ後日、料理対決をしようではないか」
「負けません」
「勝ちます」
「審判はカズちゃんに任せる積もりだが、お二人は良いかな?」
「「コクン」」
俺のために料理を作るのだから、俺が審判になるのは必須。若干怖い思いもするが、もちろん引き受ける積もりだ。
「私も参加しようかしら?」
「…………!!れ、レイラ今なんて言った?」
「だから、私も参加しようかなと」
聞き間違いではなかった。レイラの参加だけはどうしても阻止しないと、俺の命が危ない。
「レイラ、それはダメだ」
「どうしてよ。私もあれから特訓してるんだから。きっとカズトも頬が落ちると思える位に美味しく出来るわよ」
「誰に味見してもらってるんだ?」
「それは……………スゥに」
それは味見役とは言えないだろう。スゥは、毒耐性を持ってるしゴミでも溶かしてしまう。
スゥによると俺の店で出た物は、何でも美味しいらしい。
レストラン〝カズト〟に来る前に、他の飲食店でも残り物やゴミを漁って食べてみた事があるらしく、全然俺の店の方が美味しいらしい。
「くっ……………わ、分かった」
「やったぁ。カズトありがとう」
おそらく今ごろカズトの額や掌は脂汗でビッショリと濡れてるに違いない。
これは後で胃腸薬でも【異世界通販】から取り寄せようとカズトは考えていた。
「他には出場する人はいませんか?」
カズトが聞くが誰も手を挙げない。これで出場する者は、タマモ、リリシー、フゥ、レイラの四人だ。
「後は開催する日程ですが」
「明日で良いじゃない」
「早い事には越した事ないです」
「早くやりたい」
「カズトに私の成長を知って貰いたいもの」
「では、明日という事で」
カズトは平静を保ってるが内心では、危機感しかない。レイラには悪いが、レイラの料理下手はカズトが良く分かっている。
あれを一朝一夕で、どうこう出来るものではない。だけど、カズトは忘れていた。レイラ以外にももう一人いるという事実に。




