161食目、アイスクリーム
引っ越し作業に忙しく、少し更新が出来ずに申し訳ありません。
もう少しで終わりそうなので、もうそろそろ通常の更新速度に戻れそうなので、もう少しお待ち頂けれれば幸いです。
初めてのアイスクリームに恐る恐るスプーンですくい、口にパクっと目を瞑り味を堪能している。
ハクに関しては、俺が食べさせてあげてる。まだ上手くスプーンやフォークが持てないようだ。
「もう失くなってしまいましたわ」
「カズト兄様、お代わりはありませんの?」
「カズト、店では出してませんよね?」
レイラが言ったように店では提供していない。【異世界通販】で仕入れれば採算は全然取れるであろうが、それはレストラン〝カズト〟だけの話だ。
おそらく貴族や商人に売買の申し込みが殺到するだろう。冷たい菓子なんて今まで存在してなかったのだから。
もしも、売買が無理なら俺を専属としてお抱えされるかもしれない。そうすれば、今の店ともお別れだ。それだけは嫌だ。
それに売れたとしても保存法がない。店なら冷凍庫はあるが、それ以外だとないだろう。態々魔導師を、このためだけに雇うのも馬鹿らしい。
「そんなに目を輝かしても店には出しませんよ。それとお代わりは、ありません。太っても知りませんよ」
カズトの太るという悪魔の言葉に女性一同ギクッと肩を揺らし、諦めたのかテーブルに空の容器を置いた。
「代わりと言ってはなんですが、こちらをどうぞ」
カズトは、コップを取り出す。そこに元々の紙パックからガラス容器へと移し替えたオレンジジュースを注ぎ込んだ。
こちらも冷えており、ノドの渇きを癒すには極上の飲み物と化している。
ゴクン
アイスクリームで警戒が蕩けたのか、オレンジジュースは何の躊躇いもなく、全員が口をつける。
「カズちゃん、これとさっきのアイスとやらも言い値で買うわよ」
タマモが俺の腕を掴み抵抗も虚しく引き寄せられ、アイスクリームとオレンジジュースの商談が始まった。
「アイスクリームは止めた方が良いですよ。見ての通りに温度によって溶けてしまいますから」
「それなら大丈夫よ。タマモも【アイテムボックス】をお持ちですから」
それを言われたら俺は何も言えない。ミミによると【アイテムボックス】を持ってる確率は相当低いらしい。
もし、持っていても所持能力が低く大抵が手持ちバック程度だという。
平民が持っていると知られれば、貴族や商人に引っ張りだことなり、その貴族や商人の専属となってしまい自由は、ほぼなくなってしまう。
ただその代わりに給金が良くらしく、大抵の平民は専属になる事を了承するという。
「タマモ様、抜け駆けはいけないと思います。カズト兄様が困ってるではありませんか」
タマモと俺の商談に待ったを掛けたのは、リリシーであった。
タマモは、これでも八人いる獣妖族の王の内の一角。同じ王族でも普通なら声を掛ける事を躊躇うはずだ。それを意図も簡単に異議を申し立てた。
「なんなの小娘。タマモと殺る気なのか?」
タマモの額に血管が浮き出てる。これは明らかに怒ってらっしゃる。
タマモの近くにいる俺でさえ、ガクガクも背筋が震える程に怖い。この場から逃げたいが足が動かない。
他の連中もリリシー以外、顔を下やそっぽを向き関係ない素振りを見せている。
「これが獣妖族が使うとされる【怖】ですか?まるで微風のようです」
リリシーは樹精族であり、その王族だ。あらゆる状態異常を、まるで避雷針のように地面に受け流す種族特性である【樹神の加護】を持ってる。
だが、ここまで強力な【樹神の加護】を持ってるのは王族だからだろう。
普通は、受け流せても少なからずダメージを受けるものだと、俺はミミから聞いている。
「流石は樹精族という事か」
「おい、タマモいい加減しろ」
リリシーが【怖】を受け流してくれたお陰か、カズトはタマモの一番近くにいる俺でも自由に体が動かせるようになった。
流石に大勢のいる場所で【怖】を放った事に対して俺は、タマモをギロリと睨む。
「タマモ、お稲荷は無しで良いんだな?」
ピョコンとタマモのキツネ耳が聳え立った。そこから冷や汗を掻きながら八王とは思えぬ程に慌て始めた。
「か、カズちゃん、それはないのよ。それだけは許して欲しいのよ」
「許して欲しいなら、先ずは謝るべき人がいるだろ」
俺は、リリシーを指差し謝るようタマモの背中を押した。ションボリとするタマモの姿は、まるで母親に怒られた子供のようだ。
「すまないのよ。あの美味しさに我を忘れて、つい大人げない事をしてしまったのよ」
「いえ、リリシーも悪いのです。カズト兄様とあの美味なものを独占されると思い……………その、リリシーも大人げなかったです」
二人は、お互い手を伸ばし握手をした。これで二人は仲直り出来たはずだ。
カズトは、二人を見詰めながら最悪戦闘に勃発しなかった事に、ただホッと安堵するのであった。




