SS6-8、赤薔薇隊隊長ライラのスローライフ~カツ丼~
「お待たせ致しました。カツ丼でございます」
「おっ!来た来た」
底が深い器であるドンブリに蓋が被せてあり、蓋を取ると湯気が天井に登って行く。湯気と一緒に美味しそうな匂いが鼻に付き食欲を助長されている。
本来なら箸を使うべきかもしれないが、ライラは初めてレストラン〝カズト〟に来た時から箸の代わりにフォークを使っている。
やはり二本の木の棒で物を掴むというのは出来ない。一回挑戦してみたが、手が震えて溢してしまう。
「では、頂きます」
パクっとカツの一切れを口に放り込むと、肉汁と卵に甘い汁が融合し口の中で踊る。
鶏の唐揚げも良かったが、カツ丼の豚も柔らかく態々噛み切らなくても溶けて消えるかのようで、肉の中で庶民に一番人気の豚肉でも、ここまで柔らかくはない。
どんだけ良い豚肉を使っているのか?知らないが、けして高くはない。庶民的でスラムに住んでる者達でも頑張れば手が届く値段設定だ。
「肉の下にある米は味が薄いな。いや、肉と一緒に食べてみればどうだ?!」
近くの席でカレーライスやオムライスを食べてる客を見て思い付いた。
肉と米は別々ではダメだ。一緒に食べてみて真価を発揮するのではないか?
「こ、これは?!」
肉で単体で食べるよりも肉と米を一緒に食べる事により更に美味しさが倍増する。
甘く煮られた肉だけでは甘過ぎる。それを米が見事に受け止め調和している。
それに肉と米の間にある玉ねぎがあり、これが名脇役だと気付く者は少ないだろう。ライラも気付いてないが、甘く食感が気に入ってる様子である。
「ふぅーっ、一つだけでは足りないな。お代わりを頼む。それにエールを」
「はーい、ただいま」
カツ丼が、こんだけ美味しいと他の料理も気になる。今まで前隊長のオススメとして鶏の唐揚げしか食べなかった自分を悔いる。
だけど、今は無性にカツ丼だけを食べたい。他の料理は後日試す事にする。
「お待たせ致しました。カツ丼とエールでございます」
「お、おおおおおお姉様?!」
「ライラ、久し振りだな」
まさか前隊長が配膳してくれるとは思いもよらず、声が裏返ってしまう。
それにしても前隊長のチャイナドレス姿は良く似合っており、思わず上から下まで全体を見渡してしまう。
「どうだ?カズトの料理は美味しかろう?」
「そ、そそそそうですわね」
ヤバイ、前隊長に緊張して味が分からない。それに……………グヘヘヘヘヘ、前隊長のチャイナドレス姿、肢体がハッキリと浮き出てエロティックで、そちらに意識を持っていかれる。
「今日は泊まって行くのか?」
「二泊三日で滞在する積もりです」
「あぁ、例の魔道具で三日なのだな」
レストラン〝カズト〟に転移してから三日過ぎると強制的に王城へ戻されてしまう。
本年を言えば、もっと滞在したいが王城からレストラン〝カズト〟までの距離を考えると贅沢は言えない。
「まぁ楽しんで行きな。ライラも客なら私もサービスを惜しまないから、何でも言ってくれ」
何でも!何でもと前隊長は言いました?!グヘヘヘヘヘ、何をやって貰うか迷ってしまう。
「へ、変な事は無しな」
まだユニが王城にいた頃、夜中ライラがユニの部屋に侵入して来てベッドへ入って来た事がある。
ユニはライラの抱き枕にされ、あんな所やこんな所までを触られまくった記憶がよみがえる。
「まだ何も言ってませんよ」
「顔に出てた」
変な表情をしていたのかと自分の頬を触り確かめるライラ。そうすると、口元にご飯粒が付着していた。
「プックスクス、済まん。可愛くて、つい言い出せなかった」
「………………ボンッ」
前隊長に可愛いと言われ茹で蛸のように頬が真っ赤に染まりうつ向いてしまう。
憧れや格好良いとかは言われ慣れてるが、女の子らしく可愛いは言われ慣れてない。だから、恥ずかしくなってしまう。
「そうだ、今日夕飯食べてから一緒に風呂に入ろう。お互いに色々話したい事があるかもしれないしな」
「分かりました。お付き合いします」
やったぁぁぁぁぁぁ!前隊長と風呂に入る約束をしてしまった。
内心で力強く拳を握り締めガッツポーズをする。今なら最強と名高い魔物であるドラゴンを一人だけで倒せるような気分だ。
「仕事があるからまたな」
「はい!仕事頑張って下さい」
去って行く前隊長にお辞儀をする。それを分かってか?前隊長も去りながら右腕を掲げ、ヒラヒラと手を振る。




