SS1-49、帝国の三勇者~戦いの後の宴会~
リンカとドロシーとの模擬戦の後は宴会騒ぎとなった。人が人を呼び食堂は、ほぼ満員で厨房は調理という名の戦場と化してる。
ドロシーには戦った後で悪いがホールで給仕してもらってる。カズトに給金は弾むと約束されると、魔力を回復させるマナポーションを飲み、疲れてる体に渇を自ら入れ、せっせと働いている。
そして、もう一人の模擬戦に参加したリンカはというと宴会に参加している。
ドロシーに勝った功績を称え、宴会の主役としてほぼ強制的に参加させられている。
「ハグハグモグモグゴクゴク」
お酒が飲めないリンカは、代わりとしてオレンジジュースを飲み、前に並んでいる料理を次から次へと腹に入れていく。
山盛りのメンチカツ、唐揚げ、トンカツの揚げ物を中心にピザ、カレー、ハンバーグ等々が出ては消え、出ては消えるのを繰り返してる。
「嬢ちゃん、中々良い食いっぷりだ。ほれほれ、こちらも美味しいぞ」
「んっ、パクパク」
「ムハンマド、何を言ってる?こっちの方が美味しいんよ。ホラッ」
ギリッ
「「やるのか、コラっ」」
木工職人のムハンマドと硝子職人のジャックが、またもやケンカになりそうな雰囲気を醸し出してる。
相変わらず犬猿の仲、水と油、不倶戴天である二人だが、ケンカになる前に静かになった。
「うるさい」
リンカが目にも止まらぬ速さでムハンマドとジャックの二人の顎へ裏拳を喰らわした。
気絶したようで寝るように椅子の背凭れへ寄っ掛かてる。これで大人しくなった。
「ヒュー、やるねぇ」
「今の見えたか?」
「気が付いたら、椅子に座ってた」
「あんなちっこい身体なのに強いんだな」
リンカから離れてる席に座ってる冒険者らしき四人組が、ヒソヒソと話してる。
「プハーっ、リンカも生ビール飲めば良いのによ」
「メグミ、リンカにアルコールを勧めるんじゃありません。あの惨劇を忘れたのですか?」
「悪い悪い」
つい、久し振りに美味しい生ビールをジョッキで飲む事が出来てメグミのテンションが高くなっていた。
この美味しい生ビールを飲める店を探そうにもレストラン〝カズト〟しかないだろう。
それに生ビールに合う肴も多く揃ってる。その証拠として塩味が効いた枝豆が食える。シンプルだが、ビール好きとしては最高だ。
一番の通としては塩だけでビールを飲めるという強者がいるが、メグミはそこまで至っていない。
「リンカは酒癖が悪いからな」
「分かれば宜しい」
それにしても良くあの身体の何処に入るのか気になってしょうがない。
まるでブラックホールのように次から次へと料理が吸い込まれるみたいにリンカの口に消えていく。
もうリンカの体重より多い料理が消えたと思われる。あんなに食ったのに体重は増えないとか女性からしたら羨ましいと思われるに違いない。
ただし、その代わりとして成長がし難い。本人からしてみたら出る所は出てグラマーになりたいと思ってるらしいが、それは当分叶わない夢だろう。
「ココアも飲めよ」
「私はあなた程に飲めませんよ」
メグミと比べたらチビチビと飲んでるように見えるが、そこら辺の冒険者無勢と比べたら飲んでる方である。
地球にいた頃は、全然飲まなかったが、こちらに転生して勇者になってから飲むようになった。
不味い不味いと思いきや、煽られて飲む事があった。だが、今日レストラン〝カズト〟にたどり着き、生ビールを飲んだ事により不味いという言葉は払拭された。
「ゴクゴク、プハァ」
「そう言いながらも良い飲みっぷりじゃねぇか」
「こんなに美味しいんですもの。今までのがドロ水と思えるくらい」
地球でも飲めば良かったと、ココアはそこだけ後悔している。酒を楽しまないと人生の半分は損してるって言うけれど、本当にそう心の奥底からそう思う。
「それならこれはどうだ?」
メグミが渡して来た小皿には、ねっとりとした生っぽい物体が乗っている。
「これは何かの塩辛?」
「酒盗だ。カツオの内臓を熟成させた塩辛だな」
酒好きなら堪らないお摘みの一つ。塩辛だから好き嫌いは分かれるだろうが、この深みのあるコクの味わいに填まると酒が一気に進む。
酒を盗むように飲んでしまう事から酒盗と呼ばれるようになったという説が濃厚な程に酒が進む。
「塩辛は苦手なのよね」
「そう言わずにほれ食ってみな。美味しいから。銘柄は分からんが日本酒もあるぞ」
「日本酒で食べてみるわ」
熟成が進んでる分、一般的な塩辛よりも匂いがきつい。でも、一回箸で掴んだ手前戻す訳には行かない。




